日本企業の記者人材登用について:新田氏の記事を読んで --- 松原 吉彦

寄稿

「企業が記者を雇う」選択肢が日本でやっと認知?(アゴラ・新田編集長)

僕も数年前にアメリカの事情(=新聞社の記者が企業に移籍してブランド価値を生み出すコンテンツを産んでいる)を知って、例によって5年後に日本に来るのか?と思っていたら、代わりに来たのがWELQ騒動だったりしますが。

いまの日本企業の広報が「優秀」だから記者人材は不要なのか?

それはさておき、数年前に見たアメリカの光景のインパクトを思い出し、あらためて日本の企業を見るにつけ、これだけ時差があっても全く再現されていないなと感じます。

件の記事では「日本の広報は優秀だから移籍人材は不要」みたいな事も書いてありましたが、結果的にいま現在の日本の企業広報は昔ながらで進歩がないので、同意をしかねます。というか、それはウチは営業が優秀だからマーケティングはいらないに等しい言い方かなと。

広報を、目先の成果にフォーカスする営業に近しいものと捉えるならば、マーケティングに相当するものも必要であって、それが企業価値やエンゲージを高めるコンテンツです。

これを担う人材についても、流動の低さは直ぐには変わると思えませんが、神田氏が言うように学生やフリーランスなど使える部分もあります。そこは形としてアメリカ型じゃなくても、日本の形でやればいい。ちょうど働き方改革で副業規定が緩むこのタイミングが考え時です。

むしろ、昔の日本の企業こそ、自社が持つ文化やストーリーを立てていました。未だにホンダやソニーの創業者ストーリーは使える遺産になっています。

それらは本人が書いたものでも広報が宣伝したものでもありません。外部のメディア(新聞や書籍や雑誌やテレビ)が上手く作って、世間に伝えたものになります。それを内部に持とう、その手段としてIT(インターネット)を使おう、というのがアメリカ型の手法です。

これはもともと外部の存在だった各種のメディアを取り込む訳で、内部からの売りたい目線で動く広報とは、寧ろ対極。切り離しての運用となります。日本ではこの点、広報が職域を拡大したり、外部の広告屋を使って同様の事をしたりしますが、これ自体が、壁が固定されたいかにも日本的なやり方です。

スペシャリストの内製化で高度化に対応を

流動性があるから、内部に雇用が出来るアメリカ型。流動性がないので、今いる社員に何でもやらせ、足りない部分は外注するのが日本型。どちらも一長一短ですが、しかし、全てが高度化する時代においては、社内の何でも屋では能力が足りず、かたや外注側も、表面的な対応しか出来ません。それで中からバカな発注をしたり、外注に振り回される事もある。

結局、専門職が中に入ってメンバーとしてやるのが一番結果を出しやすい。

日本はIT開発も外注する傾向がありますが、全く逆です。自社のコアな部分であって、社内でどこまでやれるかです。

例えば一部でいま話題になっているのが日経電子版の高速化です。これも開発の一部を内製化した成果と言われています。外注と切り離したから良いのではなく、社内に専門家を置いて外部が連携するという事です。

日経の場合は社員をアサインしたようですが、人材がいない場合は外部から入れるしかない。それも所謂、外注さんの常駐ではなく、権限を持たせた存在としての配置しないと意味がない。

記者についても同様です。よくある誤解は、記者の記事を書く能力を評価すると言うものです。そうではなくて、記者が評価される最大の理由は取材能力。それを活かすために、会社の誰を取材しても良いし、何を聞いても良いとする。その質問力や、切り口の設定、細かな事実の積み上げで一つのコンテンツを作る、地味を厭わぬ調査力です。それはキラキラ広報の寧ろ対極であり、求められるのも単なる記事広ではありません。その違いが分かるかどうか。

新しい人材市場を拓くのに動くべきところは?

しかも最近の新聞記者はすっかりポエマーになって、読者の感情に訴える記事を書いてもいるので、寧ろ昔よりも企業で活躍できるスキルは備えているんじゃないの?とも思います。

ただ、記事にあるように流動性はやはり期待が持てませんので、アメリカ型での後追いはスピード感に欠けます。そこは例えば新聞社が人材派遣をしても良いし(もちろん今みんなが思う派遣ではなく経営層とも話せる権限ありきの)、新聞社以外にも取材スキルのある人間やOBもいますから、それらが活用される可能性もあります。

問題は、企業の方が自社を人材のプラットフォームにするかどうか。正社員として迎え入れ広報とは別に部署を作るか、外注の場合でも、社内を自由に闊歩できる権限を持たせた存在として迎え入れるか?

これも日本の会社は全般には固すぎると思われるので、ベンチャー系を筆頭に若い会社が牽引するかどうかが分かれ目でしょう。ここで必要とされる人数は、会社の数だけ、つまり膨大な人材需要が潜在します。ここが動けば新しい人材市場が拓けます。働き方改革を言うのであれば、これ位するのはむしろ手始めかなとも思います。

松原 吉彦(まつばら よしひこ)Code for Japan 事務局
広告会社、IT企業勤務などを経て、フリーランス。企画・取材・撮影・広報・業務改善・集客支援等を行う。2014年都知事選では家入一真氏のネット選挙をサポート。市民がITを活用し、地域課題を解決するシビックテック活動を展開するCode for Japanの事務局を務める。ツイッターは「@yoshi0426