高齢者が賃貸住宅の入居を断られるケースが増え、社会問題化している。
先月25日から始まったのは、政府主導で高齢者・低所得者向けに空き家を活用する新制度だ。なかなか画期的な制度なので上手く機能して欲しいが、越えねばならないハードルも多く、制度の運用方法・周知方法次第ではその効果は限定的なものになるかもしれない。
高齢者の賃貸住宅入居にはそれを阻害するいくつかの要因が有り、的確な解決方法を見出だすことは容易ではない。
まず主な問題の一つとして挙げられるのは「賃料を支払い続けられる担保」、つまり支払い能力があるかどうかだ。
高齢者がその賃料債務に対し十分な収入、預金、第3者からの補助等が確認されることが入居の大前提となる。保証人若しくは賃貸保証会社の保証を受けるとしても、まずは本人に支払い能力があることが必要不可欠だ。
賃貸住宅の入居申込みにあたり、その賃料支払いの原資を大家が確認すること自体は高齢者に限ったことではないが、大家側からすると入居申込者の年齢が高くなればなる程、支払い原資が将来に渡り維持出来ていくかどうかが大きな懸念材料となる。
もう一つの問題は「万一の場合」が起きた時に生じる貸主としてのリスクにある。
賃貸建物内での入居者の死亡や高齢を起因とする事故等が発生し、そしてそこで損害が生じてしまった場合に、道義的にも現実的にもその賠償を求めることは難しい場合が多い。ならば大家側は始めからその「万一の場合」のリスクが低い入居者を求めてしまう。
前述の政府主導の新制度が上手く機能すれば高齢者や低所得者が住宅を借りやすい一定の環境が作られる一方、だからといって大家側からすれば家賃滞納や孤独死等のリスクが全て払拭できる訳ではない。
現在、神奈川県では「神奈川県居住支援協議会」が住宅弱者とされる方々を対象に様々な支援を行っている。住宅セーフティネット法に基づき登録された賃貸住宅の検索や協力不動産店の検索、見守り等支援制度の紹介や家賃債務保証制度の紹介、それ以外にも様々な支援の紹介をしているので、高齢者の方々に十分活用されることを願うばかりだ。
上述の様なさまざまな支援体制の周知を高齢者本人のみならず社会に対しても高めていければ、少なくともこの問題を取り巻く社会全体の意識も変わっていく筈だ。
現在の高齢者を住宅弱者にしない環境を作ることは、将来の自分が住宅弱者にならない環境を作ることでもあるのだ。
※高齢者・低所得者を対象とした空き家を活用する新制度(新たな住宅セーフティネット制度)には原則として高齢者や低所得者(住宅確保要配慮者)の入居を拒まないことや一定の家賃補助、債務保証支援、入居前後の人的支援等も盛り込まれているが、あくまで「この制度に登録し制度の基準に適合した住宅」のみがその対象となっていることを追記する。
高幡 和也(たかはた かずや) 宅地建物取引士