法律の制定や改正の場合だったら、どういう立法事実があるのか、と問うところだが、憲法の改正については立法事実がどこにあるのか、などという物言いが出来ないので、ここでは憲法改正の必要性がどこにあるのか、というくらいの物言いに留めておこうと思っている。
安倍総理は、かつて、自衛隊が合憲の存在であることを確定するために憲法に自衛隊を明記する必要がある、などと主張されていたが、一部の憲法学者の方は除いて、国会レベルでは自衛隊の合憲性に異議を述べる人は一人もいないはずだから、あえて自衛隊の合憲性を確認するためだけにこの段階で憲法改正に踏み込む必要はないのではないか、という主張はそれなりに理由がありそうである。
自衛隊の合憲性を確認するためだけの憲法改正なら、やってもやらなくても何も変わらないはずだから、わざわざ巨額の経費を掛けての国民投票までやらなくてもいい、という意見はもっともである。
私も、自衛隊を合憲の存在として確認するためだけの憲法改正なら、推奨しない。
何のために憲法を改正するのか、現在の憲法の条項のどこにどういう不備があって、そこをどういう風に変えようとしているのか、などということを徹底的に議論して、どうしても変えなければならない条項や変えた方が様々な疑念が解消してスッキリするような条項、さらには変えることによって国民に大きなメリットが齎されるような事項を具体的に摘出して、憲法改正の要否や可否を丁寧に議論して、然るべき時に憲法改正に踏み切るのがいいのであって、自衛隊の合憲性を確認するためだけの憲法改正論議なら要らない、というのが正直な感想である。
安倍総理には、どうも憲法改正が自己目的化しているようなところがあるのが、私には不満である。
この段階で自衛隊の存在を明記しようとするのには、もっと隠された動機があるはずだ。自衛隊を憲法に明記することで、これまで安倍内閣が進めてきた解釈改憲や平和安全法制整備の流れを追認させて違憲の疑いを払拭し、さらに自衛隊を本格的な軍隊に変質させようとしているのではないか、などと批判される方々がおられるが、そういう批判を一概に一蹴できないところにこの問題の難しさがある。
安倍総理には、平気で解釈改憲を実行してしまったり、野党の憲法の規定に基づく臨時国会開催要求も平然と無視してしまうような乱暴なところがあるから、自衛隊の合憲性を確認するためだけの憲法改正だ、などと言われても鵜呑みにしてはいけないな、と身構えさせてしまうような危なさがある。
石破さんの改憲なら額面通りに受け取ってもそう大きな間違いはなさそうだが、安倍総理の改憲はその真意をよく見ておかないと、どこでどう内容がすり替わってしまうかよく分からないところがある。
目下のところ、立憲民主党などが、安倍内閣での改憲は認めないと主張するのには、それなりの理由があると言っていいだろう。
幸い、最近は安倍総理が声高に憲法改正の必要性を訴える場面が減り、基本的には国会の議論に委ねるようになっているようだから、無茶なことにはならないと思うが、手放しで安心はしない方がいいと思う。
そういう意味では、立憲民主党も希望の党もいい線を行っているようである。
何にしても憲法改正の議論はこれからである。
そろそろ、私の出番かな。
編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2017年11月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。