鹿児島は火山灰地で、土地が貧しいから、さつまいもが栽培されて、それが焼酎という固有の酒文化を生んだのである。世界の高度に多様的な酒文化は、どこでも、その土地で入手な可能な原料を工夫して作った結果である。だからこそ、日本でビールやウィスキーを創ることができていて、その品質が世界最高水準にあることは、明治以来の日本の産業発展の象徴でもあり、日本の誇なのだ。
さて、日本料理が全世界に普及しているのに、日本酒は世界を席巻できていない。日本では、フランス料理やイタリア料理が普及するにつれて、フランスやイタリアからのワインの輸入も増えてきたはずである。逆に、フランスやイタリアにとって、ワイン産業が重要な産業になり得ている背景には、当然に、食文化の輸出という大きな戦略があったからである。日本酒には、その戦略がない。
フランスやイタリアでは、ワイン産業が大きな地方産業となり、同時に、グローバル産業となったのに対して、食文化戦略を欠いた日本酒産業は、グローバル化はおろか、必ずしも大きくない地方産業になり下がってしまった状況にある。
沖縄では、基本的に、泡盛が飲まれている。それは、強固に確立した食文化のなかに、泡盛が強固に組み込まれているからだ。その食文化の確立なくしては、沖縄の観光産業もなく、沖縄県外への沖縄料理と泡盛の普及もない。
経済圏が文化圏を生んだのか、文化圏が経済圏を生んだのかは、よくわからないが、要は、同時規定的なもので、どちらが先でもいいのである。ならば、今の日本の現状からすれば、地方の文化圏の創生が地方の経済圏の創生につながるような根源的な展開が必要なのである。
先進医療拠点、国際金融センターの設立、ライフサイエンス等の先端分野の研究開発から製造までの産業集積拠点というようなことも、もはや、伝統的な施設誘致という枠を超えなくてはならない。医療を中核として、教育に至るまでの人を主役とした新たな文化圏の構築へまでいかざるを得ないのである。
あるいは、時代を逆行することも必要であろう。江戸時代にまで遡る古い文化交流圏は、当然に、当時の水運を中核とした物流が作る経済圏に重なっていたのだ。古い産業連関の古層を見直すことを通じて、新たなる経済圏構築への展望が開けてくるのかもしれない。
経済は人が創る文化基盤でなければならない。豊かな経済とは、豊かな文化以外の何ものでもない。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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