公契約条例で害される地域の自由経済

山本 ひろこ

旧千代田生命保険本社ビルに入る目黒区役所(Wikipediaより:編集部)

目黒区議会議員の山本ひろこです。

労働条件の整備による公契約の質の確保などを目的とした『公契約条例』は、2009年9月に千葉県野田市で初めて制定され、以降多くの自治体で制定されています。2013年時点で800余ということは、今では1000以上の自治体で制定されているかもしれません。昨年の条例案検討の段階からずっと反対してきましたが、目黒区でもついに制定されることになりそうです。

いかにも労働環境を良くするためと思われがちな、『公契約条例』ですが、本当にそうでしょうか。どの自治体でも似たような趣旨がうたわれていますので、参考までに、目黒区での制度の趣旨を見ていきましょう。

1)公契約に従事する際の適正な労働条件を確保します

「条例で賃金の最低額を設定することで、労働条件の向上を図ります」と記載がありますが、既に国が最低賃金法を定めているにも関わらず、区の職員給与などを勘案して別途の報酬下限額を定めることの妥当性も不明です。

そもそも、区との契約においてのみ、賃上げをする必要が出てきたら、他の案件で帳尻をつけるのが常。公共事業の時だけ賃金を確保しても、労働条件は向上しません。

むしろ、賃金支払報告書を作成して提出させることで、事業者にも役所にも新たな事務負担が発生します。事業者は、この人件費を負担せねばならず、住民は、この人件費を税として負担し、双方にとってのコストが発生するにも関わらず、この規制と目的の関連性や実効性が実に不透明です。

2)人材を確保しやすい環境等を整備します

「最低賃金の設定で、優秀な人材確保と職場への定着を促す」とのことですが、その関連性は極めて不明です。先も述べたように、公共事業で賃上げが必要になったら、他の事業でその帳尻を合わせなくては、事業者は人件費の高騰に苦しむことになります。

また、優秀な人材には、より良い条件の会社へ転職という選択肢があるなか、最低賃金を満たすレベルの待遇で、優秀な人材が集まるという理論にも疑問です。

3)公契約の適正な履行とその質を確保します

自治体独自の最低賃金設定で、果たして公共工事の質が確保されるのか。これも、理論的な妥当性に欠ける話。公共工事の品質を下げる最大の理由は短納期、労働者への無理なスケジュールなどであり、最低制限価格のある入札制度を用いている以上、不当に安価な契約にはなっていません。公共工事の適正な履行や品質は、業者選定や契約において担保すべきことであり、最低賃金設定をわざわざ設ける必要性もなければ、その効果も間接的すぎて測れません。

4)区民サービスの向上と地域経済の活性化を目指します

「賃金の最低額を定めることで、従事する労働者の労働意欲を高め、業務の質を向上させ、区民サービスの向上につなげていきます」とのことですが、先も述べた通り、最低賃金設定による品質向上は非常に間接的で、その効果は不明確に尽きます。

また、「区内事業者への発注に最大限務める」ことで、地域経済の活性化を目指すとのことですが、区内事業者への発注を優先することは別の施策の話であり、公契約条例を制定する理由にはならないでしょう。

以上見てきたとおり、『公契約条例』の制定により、公契約の品質が向上し、労働環境が良くなるという明確な理論はありません

必要性も不明確で、実効性も怪しまれる内容で、労働基準法に上乗せするこのような規制を作る必要があるでしょうか。唯一明確なのは、この規制で事務負担のための人件費が発生することだけです。この手間と人件費は、人的余裕のない中小企業にこそ、負担となってしまいます。このような不必要な民間介入が、地域経済を活性化するどころか、地域の自由経済を害しているのではないかと考えます。

山本ひろこ 目黒区議会議員(日本維新の会)
1976年生まれ、埼玉大学卒業後、外資系企業でITエンジニアとして勤務しながら、3児をもうけるも、保育園入所率ワースト1の目黒区にて保活に苦戦し、行政のありかたに疑問を抱く。その後の勉強会で小さな政府理論に目覚め、政治の世界へ。2015年、目黒区議選に初当選。夫の病気を機に健康管理士取得。現在は東洋大学院公民連携学研究生。