保育政策について検討する有識者会議、内閣府子ども子育て会議委員の駒崎です。
この度、驚くべきことが発覚したので、記事にしました。
安倍政権の待機児童解消の約束
安倍総理は、先日11月17日の所信表明演説においても「待機児童解消を目指す安倍内閣の決意は揺るぎません。本年六月に策定した「子育て安心プラン」を前倒しし、2020年度までに32万人分の受け皿整備を進めます」と約束しました。
しかしこの32万人という数字の根拠がよく分からなかったので、有識者会議の場で、厚労省保育課長に途中の計算式を尋ねました。
ですが、モゴモゴ言うだけで、式は出てきませんでした。
同時期に、希望の党の玉木代表が、この32万人の根拠を国会質問しました。その際も明確な答えが返ってきませんでした。
これは怪しい。
何か出せない理由でもあるのか・・・。そう思って、最後の手段、情報公開請求をかけようと準備していたところ、厚労省から連絡がありました。
途中計算式の資料ができたので、説明に行かせてほしい、と。
ようやく出てきた推計根拠だったが・・・
これが計算根拠のシートです。
平成24年度から28年度の、女性就業率と保育の利用申し込み率は相関していて、その相関係数を出す。4年後には女性就業率が80%になったとすると、相関係数をかけると利用申し込み率は53.6%になるので、利用申込者数は295万人になる、と。
つまりは、厚労省曰く、この平成33年の295万人がゴールというわけです。
で、平成30年には263万人分の整備量が確保されるので、埋めるべき差分は295万人-263万人=32万人、というわけです。
これを政府は去年の9月に試算しました。
ふんふんと説明を受けつつ、「あれ??」と気づいたことがありました。
2ヶ月前に見た数字と違う、と。
計画はすでに陳腐化していた
今年の9月の子ども子育て会議で、下記の「待機児童の解消に向けた取り組みの状況について」が配布されました。
これは最新の資料で、平成30年4月開園の数字もほぼ確定のものです。
この資料によると、来年である平成30年度には、保育の受け皿量は300万人分に到達しようとしています。
冒頭でお示しした、政府が去年掲げた保育の整備目標295万人は、3年もかけず、なんと来年度にすでに達成する見込みなのです。
つまり、昨年9月に作った目標が、今すでにずれてしまっていて、もうすっかり陳腐化してしまっていたのです。
驚くべきことに、厚労省はそれに気づかず数値のアップデートをせず、さらに安倍総理もそれに気づかず、国会で行う大事な所信表明演説で「32万人を3年で前倒しして達成します!」と言ってしまったのです。
嘘のような本当の話です。
すでに意味がなくなった数値、32万人に向けてひた走ろうとしている政府。こんなブラックジョークみたいな状況がよもや母国で起きていようとは・・・と信じられない思いになりました。
保育ニーズの測定し直しを
保育の受け皿量300万人分が来年度に確保されようとしていますが、待機児童数が減っていないことを鑑みると、おそらく政府の当初目標の295万人分の保育受け皿量を確保したとしても、待機児童の解決には至らないでしょう。
それは、政府の推計が、「申込者数」という、潜在ニーズを読み込んでいない、つまりニーズを圧縮してしまう指標を使っているためです
現在、都市部においては基本的にはフルタイムでなければ保育所に入ることは困難で、例えば週3のフリーランスや自営業の方々は保育所には望んでいても入れません。
現に野村総研の調査によると、今年4月に保育利用が叶わなかった理由のうち4割が「そもそも申し込みを行わなかったため」であり、申し込みを行わなかった理由1位が「申し込んでも無理であろうと諦めた」なのです。
こういった方々は、そもそも申し込みすらしていないため、推計からは漏れてしまうのです。しかし、保育園に入れるのなら当然入りたいと思っています。
よって、すでに顕在化したニーズである「申込数」だけではなく、未就学児の数×母親の就労率×(1 - 保育園を積極的に使いたくない人の率)によって、保育ニーズを捉えた方が実相には近くなります。
そうすると野村総研の試算のように、32万人では到底収まらず、70~88万人くらいになることは明らかなのではないかと思います。
厚労省および官邸には、すでに破綻した32万人推計を捨て、もう一度推計をやり直し、しっかりと目標を立て直して頂きたいと強く思います。
そしてその際は、あえて低い数値が出る「申込者数」を計算前提にしないで、潜在ニーズを含めるようにしなくてはいけません。
保育ニーズもまともに測れてないのに無償化するのはおかしい
上記のように、保育ニーズもきちんと推計できておらず、1年前の陳腐化した計画をもとに進もうとしている状況にも関わらず、無償化を優先させていくのは、もはや正気の沙汰ではありません。
まず、保育が受けられないで困っている人たちを助け、そして現状の保育システムが抱える質の問題を解決し、その上で経済的な困難層から無償化していくことが筋ではないでしょうか。
保育ニーズの見える化、そして出し直された保育ニーズの解消にいくらかかるのかの試算を政府が行うよう、メディアや国民の皆さんが声をあげていただくことを、心より期待したいと思います。
僕は有識者会議の場で、吠え続けていけたらと思います。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年11月29日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。