カラオケでエグザイルの曲を歌うことは危険である!

尾藤 克之

舞妓とは、京都の祇園を中心とした五花街で、舞踊、御囃子などの芸で宴席に興を添えることを仕事とする芸妓の見習い段階の少女を指す。舞妓特有の厳しいしきたりがあり、かなりの忍耐が必要とされる。また、舞妓が日中に、花街や花街以外を出歩くことはめずらしく、多くは変装舞妓(舞妓体験してる人)とも言われている。

今回、紹介するのは『京都花街の芸舞妓は知っている 掴むひと 逃すひと』。著者は竹由喜美子(以下、竹由氏)。14歳から踊りの稽古をはじめ、16歳で舞妓になり、5年後に襟替えをして芸妓となる。舞妓の仕事は奥が深いが、私たちが応用できるものはないか探ってみたい。なお、反響があったことから数回にわたり本書を紹介したが、今回が最終となる。

カラオケはプレゼンテーションの場

――京都花街の座敷では、芸舞妓の踊りや唄だけでなく、カラオケをたのしむこともできる。しかし、このカラオケの場をこなすことは思いのほか難易度が高い。

「おおげさかもしれませんが、カラオケはとても大事な自己プレゼンの場だと認識すべきでしょう。どういう曲を選ぶかは、プレゼントやドレスコードと同じく、そのひとのセンスが如実に現れます。年齢差のあるひとといっしょの場合、そのひとの知っていそうな曲を選ぶひとがいますが、これにはやや疑問符が付きます。」(竹由氏)

「そのひとの年代にふさわしいヒット曲といっても好みは多様ですし、ご存じないこともあります。それに自分が若い頃流行った曲を歌ってもらえばうれしいというものでもないでしょう。むしろ気まずくなる可能性もあります。あまり無理をせずに、自分の好きな曲を選べばいいのではないでしょうか。」(同)

――ただし、選曲の際にはマナーがあるようだ。あまりにもマイナー、マニアック、ハイテンション、あるいは暗すぎるなどの曲は避けなくてはいけない。

「どの世代にも耳なじみのよい選曲がいいと思います。同年代の仲間内でというときは、王道のヒット曲から少しはずれていても聞き覚えはあるでしょうから、あえて少しマニアックな曲でもいいでしょうが、そういうときでもやはりみんなが盛り上がることのできる曲を選ぶべきではないでしょうか。」(竹由氏)

「パーティ会場にジーンズで出向くかのごとく、あえてはずしても大丈夫という自信があるなら、わざと誰も知らないような曲で受けを狙ってもいいと思います。ですが、かなりのリスクはともないますから、ご覚悟のうえで。」(同)

女性とのカラオケには注意が必要

――さらに、竹由氏は次のように続ける。

「女性とのカラオケでNGなのは、『これ、好きでしょ』と、勝手に決めつけて歌うことです。好きではないアーティストさんの歌を歌っているひとがいると、『あ、歌の好みはあまり合わないかな』くらいは思いますが、自分もひとの好みがわからないまま好きな歌を入れるのですから、そこはおたがい様です。」(竹由氏)

「何をお歌いになってもいいのですが、わざわざ『女性ってこの曲好きだよね』などと言って歌われると、『このひと、ないなぁー』となります。」(同)

――「君のために歌う」アピールの果てにはずしたら、まさに“興ざめ”である。このようなアピールを前に、悲鳴をあげている女子は少なくないとのこと。また、一般的には、歌えるかどうかわからない、うろ覚えの曲を入れることも好ましくない。

「個人的な意見ですが、エグザイルさんの曲は、エグザイルファンの女性の前であっても、歌うのはかなりリスキーです。あのかたがたの歌は生半可な歌唱カでチャレンジするのはキケンです。また逆にたとえバツグンの歌唱力であっても、あのノリで酔いしれて歌いあげられると、ついていけず、どうしていいやら、となってしまいます。」(竹由氏)

「ちなみに奥田民生さんの歌も、ご本人がゆるーい感じで歌われているように映るので、簡単そうに思って選曲すると、思いのほかむずかしくて、痛い目にあいます (これは手痛い経験にもとづく個人的な意見です)。」(同)

――カラオケで歌が上手に歌えたからといってもそれだけの話。歌が上手いからと拍手喝采を浴びても、それはその場限りのこと。それを聞いた人が、「あの人に出資したい」「あの人といっしょに仕事がしたい」とはならない。むしろ、センスがいいとか、全体がよく見えているとか、そういうことのほうが大切かも知れない。

本書の読みどころについて

最後に本書の読みどころを記したい。京都弁には「はんなり」と言われる独特の響きがある。「はんなり」は、華やかで上品さを兼ね備えている様子をあらわす。本書には、著者のイメージが伝わりやすいように、所々に「はんなり」の要素が使用されている。また、独特のイントネーションを伝えるために「ひらがな」を多用している。

例えば、「注ぐ」→「よそう」と表現するなど、標準語とは明らかに異なる言葉が使用されているが、それが独特な味わいを醸し出している。この辺りの仕掛けについて味わってもらいたい。京都花街の世界で知り得た処世術とはなにか。チャンス、商機、人の心を掴んで離さない、そのような人物評価を知りたい人にとって最適な一冊である。

尾藤克之
コラムニスト

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