米企業がスーダンに戻ってくる

国連工業開発機関(UNIDO)第17回総会は27日、5日間の日程でウィ―ンの本部で開催中だが、スーダンから総会に参加したムサ・モハメット・カラマ工業相は28日、当方との単独会見に応じ、南北分断後のスーダンの国民経済、制裁の一部解除を実施した米国との関係などについてその見解を語ってくれた。

インタビューに応えるスーダンのカラマ工業相(Musa Mohamed Karama)(2017年11月28日、UNIDO総会会場内で撮影)

カラマ工業相は1994年、日本文部省海外留学生として東京大学で農学を勉学し、博士号を得た。駐スーダンの日本大使館で1年間、勤務したこともあるスーダンきっての親日派政治家だ。

スーダンは領土の大きさではアフリカ大陸で最大の国家だったが、2011年に南北に分断された。カラマ相は、「スーダンは大きな国だ。南北分断でその巨大な地下資源が南側に渡った。工業地帯は主に北部と中部に集中していたから、北スーダンの国民経済には大きな影響はなかったが、地下資源や外貨収入源の損失は痛手だ。広大な領土と700万人の国民を失ったわけだから当然だろう。北側は南スーダン国民の独立への意思を尊重するが、分断は結局、南北両国にとって、失ったものが多かったと言わざるを得ない」と述べた。

同国の貴重な地下資源の原油拠点はほとんど南スーダンに渡ってしまった。現在の原油生産量は日量約20万バレルだ。新しい原油開発にも乗り出している。米国が対スーダン制裁の一部を解消したことで、米国企業もスーダン市場に戻りつつある。「米石油関連企業シェブロンも戻ってくる。2030年までには日量50万バレルを達成したいと考えている」という。

カラマ工業相は「トランプ米政権が10月、制裁の一部解除を決定したので私企業の経済活動が可能となった。米企業もスーダン市場に投資できるし、スーダン企業も米国市場に進出できるようになる。ただし、政府間交流、例えば、軍事協力や情報交換といった交流はまだない。米国はわが国をテロ支援国家リストに載せているからだ」と指摘した。

スーダンはイスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)壊滅作戦では米国と協力している。スーダンのイスラム教は穏健だ。「如何なるテロ活動も容認しない」という強い信念を有しているという。

エジプト東部シナイ半島北部のモスク(イスラム礼拝所)で300人を超える犠牲者がでたばかりだ。エジプトはアラブ諸国では大国であり、軍事力もある。なぜエジプトはテロ対策で勝利できないのかを聞いてみた。

「武力でテロに勝利することは容易ではない。イスラム教社会は全てのグループと対話をし、話し合うべきだ。残念ながら、イスラム世界では民主主義が定着していない。民主主義体制の欠如がテロを生み出す温床となっている面が否定できない」と答えた。

会見ではバシール大統領のロシア訪問、ロシア製戦闘機スホイ35(Su-35)の購入問題なども質問した。アラブ諸国で初めてロシア製戦闘機の購入問題は少々、厄介な政治問題だけに、同相も返答には苦慮していた。米紙ワシントンタイムズの購入報道が正しかったことを認めたが、購入交渉はまだ終わっていないと明らかにした。

同国最大の投資国中国との関係については、「中国はわが国の良きパートナーだ。中国は当初、原油開発に積極的に投資してきたが、ここにきて道路、橋建設など土木業、建設業、電気関連分野など産業インフラにも投資している。世界の企業が制裁ゆえにスーダン市場への進出を躊躇していた時、中国企業はわが国を積極的に支援してくれた」と述べた。

カラマ工業相は最後に、「日本企業がスーダンに進出し、投資してくれることを期待している。例えば、自動車製造、道路・鉄道建設から原油・鉱山開発まで様々な産業分野で日本の投資を期待している」と語った。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年11月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。