一昔前は、立派な自社ビルを持ってたくさんの従業員を抱える会社が一流企業の条件のように思われていました。現に、今でも世間で一流企業と言われる会社の多くは自社ビルを持ち多くの従業員を抱えています。
しかし、これからの時代、規模拡大は企業にとって大きなリスクになると私は考えています。
まず、自社ビルを持つことは不動産投資です。マイホームが不動産投資と同じであるということは以前に書きました(マイホームは不動産投資?!)。
住宅ローン同様で、銀行から融資を受けて自社ビルを建てるのは、所有者が家賃を支払う「帰属家賃」と同じで、投資不動産を自社が借りているのと同じです。
その上、賃貸オフィスと違って、規模の拡大や縮小に対応するのが難しくなります。
下手をすると無駄なスペースがたくさんできて「空室だらけの賃貸マンション」を所有するのと同じ結果に陥りかねません。
また、従業員を多数雇ってしまうと、解雇規制が厳しい現状下では人員削減が極めて困難になり、場合によっては「割増退職金」という不測の出費が必要になるケースもあります。
これからは、少人数のヘッドクォーター(headquarters)で、アウトソーシングできるものはどんどん外部に委託するのが効率的でしょう。
米国ではこのような形態の企業が年々増えているようです。
自社工場を持たず、国際水平分業を行っているアップルもその一例でしょう(アップルは自社ビルを持っていますが、敷地の価格は日本より遥かに安いはずです)。
外部コンサルタントやロイヤーに多額の報酬を払うのも、従業員として内製化するより結果として安価になるからだそうです。
このような動きは、2001年に書かれた「フリーエージェント社会の到来」(ダニエル・ピンク著 ダイヤモンド社)で既に予言されていました。
米国でのフリーエージェントの数は着実に増加しています。
外部委託されたフリーエージェントは、信頼を失うと次の仕事が回ってこないので全力でクオリティーの高い仕事をするでしょう。黙っていても決まった給料をもらえるサラリーマンとは大違いです。ITの一層の進歩だけでなく、ブロックチェーンが実用化されれば、水平分業はますます主流になっていきます。
ところが、経営者には「エンパイア・ビルディング」(摩天楼のことではありません)という強い誘惑がつきまといます。
つまり、自分の会社を巨大化して帝国を作りたいという人間の性(さが)のような誘惑です。
この誘惑を払拭できるか否かが、今後の経営者の大きな資質のひとつになるものと、私は考えています。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年12月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。