そもそも人はなんで悩むのか知っていますか?

尾藤 克之

アゴラでは、「出版道場」という出版ニーズに応えるための実践講座を年2回開催している。その影響もあり、著者や出版社から献本されることが非常に増えている。良著と思われるものを記事にしているが、今回は、『自分をほめる習慣』(すばる舎)を紹介したい。著者は、人材コンサルタントの原邦雄さん。

「うさぎ」の写真を使った表紙が印象的な本である。出版社に聞いたところ、誰もが心の奥に持っている繊細な部分と、見てほしい、認めてほしい、という部分をライトに表現したら「うさぎ」になったとのこと。みんなに愛され、かまわれ、大事にされる本という意味もあるのだろう。ビジネス書において表紙のインパクトは大きいが意味も深い。

そもそもなぜ人は「悩む」のか

――原さんによれば、人の悩みは、「自己肯定感を高めること」によって、ある程度の解決が可能になるそうだ。しかし、自己肯定(自分をほめる)が苦手な人もいる。そのような人には、自己肯定が必要な理由を理解すべきだろう。

「誰もがセルフイメージを高く持ち、幸せな人生を送れているのだとしたら、本書は必要のないものです。そうではなく、現状の不安や悩みから解放されたいと考えている人が多いことから自己肯定は必要なものと考えています。では、人はなぜ『悩む』のでしょうか?悩みとは何なのでしょうか。わたしは悩みを『囚われ』と定義しています。」(原さん)

「『囚われ』という字をよく見てください。『人』が『口』のなかに閉じ込められてしまっていますよね?あなたの意識が存在しているのは、あなたの頭のなかです。脳のなかのあなたは,何かの悩みを内側に抱え込んでしまって、それが苦しい、しんどい状況になってしまっているのです。悩みとは、何かに囚われてしまっている状態なのです。」(同)

――これまでの人生を振り返ってみよう。悩みがひとつもなかったときなんてないだろう。子どもには子ども、大人には大人なりの悩みがあったはずである。

「生きている限り悩みは一生なくならないものなのです。悩みを、内側に置いたままにしていたら、囚われてしまったままです。でも外に出すことができれば、自己肯定感が上がります。そうすると記憶にとどまりやすくなります。それは、大きな社会的報酬になるということが、生理学研究所の定藤規弘教授の研究で明らかになっています。」(原さん)

「自己肯定感が高まるとは、自分の良いところもダメなところも、全部まとめて『これが自分』と思える感覚のことです。『こんな自分が好きだ』『自分は自分のままでいい』『自分に生まれてきて良かった』など、自分を大切にする感覚です。」(同)

今年はマインド系がブームか

――今年のヒット作には傾向があるように感じている。それが「マインド」である。「うつぬけ」「マインドフルネス」も内面にフォーカスしたものだし、本著の「自己肯定」も内面に着目したものである。他の類書と比較して特徴的なのは、自己肯定は「ほめる」ことでさらに伸ばすことができるとしている点にある。

「高いセルフイメージを持つためには自己肯定感を高めることが必要です。自己肯定感が低い状態で、たとえば本やセミナーなどの力で無理にモチベーションを高めたとしても、砂の上のお城のように土台から崩れ去ってしまうでしょう。」(原さん)

「人間は、焦点が当たっているものだけが見える習性を持っています。試しに本を置いて、周囲で『赤色のもの』を探してみてください。どのくらいあるでしょう?次に、さて『青色のもの』はいくつあったでしょうか。」(同)

――恐らく、数えるほどしか思い出せなかったのではないか。「焦点」という考え方は、とても大切になる。ほめるためには「良いところ」や「長所」に目を向けなければいけない。さらに、焦点をマイナスからプラスに変化させることで、よい面が明らかになる。

「自尊心が満たされると、人はほめてくれた相手への心の扉が開き、『相手の話を聞いてみよう』という気持ちになります。これは他人に対してでも、自分に対してでも同じです。人間は誰しも、完璧ではありません。どこかに必ず何かしらの課題を持っています。ほめることで自分と向き合い、自らを客観視する作業が必要なのです。」(原さん)

ほめるスキルを習得すべし

また、「ほめる」スキルは、マネジメントにも効果を発揮する。やる気がなさそうな部下を目の前にすると、長所を見つけるのは難しいという人もいるかも知れない。しかし、いまの人は、ガツンと叱ると折れてしまう。さてどうしたものかと悩む管理職は多い。部下を成長させるためには、適切に「ほめる」ことが効果的である。

本書で、述べているように、感情をコントロールして「ほめる」ことの効果は高い。頭ごなしに「叱る」と部下は凹む。頭ごなしに、ほめても、部下は凹まない。相手の感じ方によるが、ちょっと言葉が、マネジメント効果を高める契機になるかも知れない。もちろん、自分の意識を高める方法として「ほめる」を使用することも効果的である。

参考書籍
自分をほめる習慣』(すばる舎)

尾藤克之
コラムニスト