ビットコインを代表とする仮想通貨、中国やスウェーデンなどで利用が拡大しているモバイル決済、インドなどでの高額紙幣廃止等々動きなどから、日本での1万円札廃止論なども出ている。これはハーバード大学のケネス・ロゴフ氏による日本での高額紙幣廃止論がひとつのきっかけとみられるが、仮想通貨とモバイル決済、高額紙幣問題は、キャッシュレス化社会としての動きとしてトータルで捉えるよりも、それぞれ切り離して考えるべきものではなかろうか。
ビットコインを代表とする仮想通貨であるが、自国の通貨に信用のおけなくなった国であれば代替通貨としての利用も考えられるが、法定通貨である円に対する信認が強い日本では、通貨としての利用は考えづらい。仮想通貨は通貨と称しているもののネットを通じた仮想の金融取引手法であり、投機的に利用されているだけである。その値動きからも17世紀のオランダのチューリップバブルと類似しているものである。仮にビットコインバブルが弾けようと、実態経済への影響はほとんどないのではなかろうか。
キャッシュレス社会が到来かと騒がれている中国などでのモバイル決済普及の動きについては、たとえば通常の電話網が整備されていないところで急速に携帯電話が普及したようなもので、現金利用に障害があることで、モバイル決済の普及が進んだといえる。さらに日本はモバイル決済の後進国などではなく、少額貨幣の利用ではキャッシュレス化は進んでいる。ただし、アプリなどの寡占化が行われず、各種のカードやアプリが乱立してしまっていることで、中国などに比べて普及が進んでいないかのような印象となっている。
問題なのは高額紙幣問題であるが、ケネス・ロゴフ氏は日本での現金流通水準の高さ、1万円札など高額紙幣の利用度の高さの要因はマネーロンダリングや脱税などの犯罪行為に高額紙幣が利用されているためとしている。日本での1万円札など現金が異常に利用されているのは何故なのか。マネーロンダリングやテロの資金調達などに日銀券が使われている可能性は全くないとまでは言い切れないものの極めて低いと思われる。
問題となるのは現金の匿名性を利用した脱税への利用であるが、これについては存在する可能性はある。昔の証券会社などにとっての金融商品販売の主力商品が割引金融債であったが、これは金融商品としてだけでなく、匿名性を利用した相続などでの脱税などにも利用されていた可能性があった。
現在は中期ゾーンの国債の利回りもマイナスとなっているため、利息ゼロの現金のほうが中期債に比べれば利回りが高い状況となっている。保管費用はかかっても、多額の現金をしまい込んでいる富裕層がいる可能性は否定できない。ときおり所有者不明の多額の現金が発見されるが、それも税金対策などであった可能性はありうる。
だからといって現金を廃止すべきというのはやや極論ではなかろうか。日本国内での現金利用率の高さは、決済等含めたその使い勝手の良さが大きく影響している。治安の良さ、現金をATMで引き出せる利便性、偽札が少ないこと、紙幣がクリーンであることなど、それなりの費用をかけて現金が利用されやすいインフラが整備されている。
キャッシュレス化はその費用を軽減させることになるが、それには特定の使いやすいアプリなども必要となろう。ただ、高齢者にとってはモバイル決済は馴染みにくい面もある。脱税を防ぎ、キャッシュレス化を進展させるために高額紙幣を廃止するという議論は極端すぎるし、日本社会に混乱を招きかねない。いずれ否応なくモバイル決済などを通じたキャッシュレス化は進むであろうし、日銀がマイナス金利政策をやめれば、保管費用のかかる現金保有は減ることも予想される。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。