貴ノ岩事件でまことに不思議なのは、力士を広い意味で雇用しているのは、相撲協会なのに、貴乃花親方が貴ノ岩と協会との接触を許さないことだ。
野球選手などは、球団が給与を払っているが、力士は相撲協会であるし、懲戒権ももっている。
もっとも、この契約の法的性格が、労働契約なのか準委任契約なのかについては、争いがある。
八百長問題で解雇された力士が解雇の効力を争った裁判などでは、力士は、「役務提供契約の法的性質は、労働契約であって、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、無効である」と主張し、日本相撲協会側は、「準委任契約である」「民法の定めに基づき、いつでも原告との契約を解除することができる」と主張した。
この裁判では、法的性格について明確な判断を示さずに、どっちにしても解雇は有効だとしている。
しかし、どっちにしても、裁判において力士が訴えた場合に被告となるのは協会なのである。
それでは、親方とはなんなのかというと、はっきりしない。企業で言えば支店長のようなものなのだろうか。
いうまでもなく、タニマチからの援助は親方を通じて入って、力士との取り分で紛争も絶えないと聞くが、本来的にそういうものも、いったん、協会を通じての資金の流れにすべきだ。大学の教員が企業から研究費を受け取るときもそうするようになっている。
相撲協会も、親方と力士の関係をコンプライアンスのうえからも整理する必要があると考えて、書面で合意書を作成して協会に提出するようにしているが、貴乃花親方はそういうものを結ぶ必要もないし、提出もしないといっているようだ。協会の近代化を主張しているのが貴乃花側だというのも勘違いだ。
貴ノ岩に対する監督者責任は、貴乃花でなく協会にあるはずだ。その意味で、居場所も分からない、場所にも巡業にも出られないほど、怪我なのかノイローゼなのか知らないが深刻なら責任があるのは協会である。
もし、治療の必要があるのに、それが受けられないとすれば、それを受けさせる義務があるのは協会だし、所在を把握するために、場合によっては警察に捜査願いを出す義務もあるのではないかという気もする。
そういうような法的側面からの議論を、マスコミがしていないのも、監督官庁たるスポーツ庁がしどうしていないのも不思議で職務怠慢だと思う。