「教会」は性犯罪の共犯者だった

世界最大のキリスト教会、ローマ・カトリック教会の聖職者による未成年者への性的虐待事件をフォローしてきたが、その不祥事の規模と犠牲者の後遺症を考えると、「カトリック教会はキリスト教を信望した宗教団体だが、聖職者の不祥事を組織的に隠蔽するやり方をみると、マフィアなどの組織犯罪グループではないのか」といった思いがどうしても湧いてくる。

▲バチカン法王庁の夕景(2011年4月、撮影)

▲バチカン法王庁の夕景(2011年4月、撮影)

オーストラリアのローマ・カトリック教会聖職者による未成年者への性的虐待事件を調査してきた「聖職者性犯罪調査王立委員会」(2013年設置)が15日、最終報告書を政府に提出した。今年2月に発表された中間報告書の内容を追認するものだ。カトリック教会所属の修道院関連施設で1950年から2009年の間に、オーストラリア教会全聖職者の7%が性的虐待に関与しており、ある施設ではその割合が40%にもなるという驚くべき内容が記述されている。

同調査委員会は4年余りの間、調査を実施してきた。同国カトリック教会司教会議の「真理・公平・治癒のための委員会」(TFHC)のフランシス・スリバン(Francis Sullivan)議長は政府に同最終報告書を早急に公表するように要請している。そして政府が報告書内容を深刻に受け取っていることを示すべきだと述べる一方、教会側としては、「調査結果に基づき、結論を下すべきであり、基本的な刷新を実施しなければならない」と強調している。

調査は57件の公式尋問、44回の委員会、1300人以上の証人から証言を聴取した。非公式の会合ではほぼ8000人の性的虐待の犠牲者が体験を語ったという。同委員会が慎重に調査してきたことが分かる。その結論が上述したショッキングな内容となるわけだ(「豪教会聖職者の『性犯罪』の衝撃」2017年2月9日参考)。

ローマ法王フランシスコが2014年2月に新設したバチカン法王庁財務長官のポストにあった前オーストラリア教会最高指導者ジョージ・ペル枢機卿が同国の検察所から未成年者への性的虐待容疑で起訴された。枢機卿はバチカンの職務を休職し、既にオーストラリアに帰国しており、メルボルンの裁判所に出廷して自身の潔白を表明するという。同枢機卿の未成年者虐待容疑は既に数年前からくすぶっていたが、同枢機卿はその度に、「私を中傷する目的であり、全く事実ではない」と強く否定してきた。

ぺル枢機卿(76)の場合、性犯罪の隠蔽問題ではなく、枢機卿自身が犯した性犯罪容疑が対象となっていた。同国ビクトリア州検察局がペル枢機卿自身の性犯罪容疑で調査を開始したことが明らかなると、バチカン放送は速報し、教会内外に大きな衝撃を投じた。

ペル枢機卿に対する性的虐待容疑はここにきて一層濃厚となってきている。被害者が出てきて生々しい証言をしているのだ。ジャーナリストのルイス・ミリガン女史は新しい本の中で、「1990年代、メルボルン大司教就任後、ペル枢機卿は2人の合唱隊の少年に性的虐待を行った」と書いている。同女史によると、2人の少年の1人は2014年、麻薬中毒で死去した。2人目の犠牲者がジャーナリストに、「ティーンエイジャー時代にペル枢機卿に性的虐待を受けた」と証言したという。

オーストラリアのカトリック教会が特別、悪い聖職者が集まった教会というわけではないだろう。欧米教会は程度の差こそあれ、聖職者の未成年者への性的虐待事件を抱えている。性犯罪は犯罪の中でも重犯罪に属する。罪を犯した聖職者を隠蔽してきたカトリック教会、バチカン法王庁は共犯者だといわれても弁明の余地がないだろう。

南米出身のローマ法王フランシスコはイタリア日刊紙ラ・レプップリカとのインタビューで、「聖職者の約2%は小児性愛者だ。司教や枢機卿の中にも小児性愛者がいる」と発言し、教会内外で衝撃が広がったことがある。バチカン報道官はその直後、法王の発言を修正したが、小児性愛者がバチカン高官の中にいることはもはや否定できない。ちなみに、(全聖職者約41万人の)「2%」とすれば約8000人の聖職者が小児性愛者ということになる(「枢機卿にも小児性愛がいた」2014年7月18日参考)

オーストラリア教会司教会議代表は、「聖職者の性犯罪が明らかになった以上、われわれは変わらなければならない」と指摘しているが、どのように教会が変り、失った信者たちの信頼を回復させるかについては何も言及していない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年12月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。