韓国の来賓には椅子の高さにご用心

長谷川 良

あまりにもバカバカしいので日本のメディアもさすがにあまり関心を示していないが、ゲストとして訪日し、安倍晋三首相を表明訪問した際、韓国政治家が座った椅子が安倍首相の椅子より明らかに低かった。これは韓国を見下す日本側の意図的な画策だ、といった批判の声が聞かれるという。もちろん、韓国でだ。

安倍首相より低い椅子に座らされた洪準杓自由韓国党代表(2017年12月14日、東京の首相官邸で、写真・自由韓国党から)

それでは、なぜそのバカバカしいテーマを当方は書き出すのかというと、あまりにもバカバカしくて涙が出そうになったので、涙を拭くために韓国の椅子の高さ騒動をアウトプットし、心の平静さを取り戻そうと考えた次第だ。

韓国の政界では過去、訪日した際、自分が座った椅子が会見相手の日本政治家より低かったという証言があった。今回その椅子の高さ論争に再び火を点けたのは今月14日、野党・自由韓国党の洪準杓(ホン・ジュンピョ)代表が安倍首相を表敬訪問した時だ。同代表の椅子が明らかに安倍首相より低かったことが分かると、韓国メディアが早速、報道し、その記事はアクセス数でランキング1位となっているのだ。

椅子の高さ騒動は康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が今月19日、就任後初の訪日で安倍首相と会談した時にも飛び出してきたことから、椅子の高さ論争は日韓関係を一層揺るがす一大事となってきたのだ。

以下、中央日報の記事を紹介する。

「就任後、初めての訪日で安倍首相を表敬訪問した韓国の康京和外交部長官も、安倍首相より低い椅子に座ったことが確認され、『外交的欠礼』という声が出ている。安倍首相は花柄が入った高いソファに座ったのに対し、康京和外交部長官は低いピンク色のソファに座った。安倍首相が自然に康京和長官を見下ろすような姿になるが、これは意図的にしたものではないかという声が韓国政界で出ている」

洪準杓代表が座っている写真が中央日報に掲載されていた。確かに、安倍首相の椅子より同代表のそれは貧弱な感じはするし、高さは韓国メディアが報じたように、低く見える。

年末で超多忙の安倍首相側に「意図的に低い椅子を用意する」といった画策を弄する時間はなかったはずだ。時間があったのはゲストの韓国側だったために、椅子の高さが大きな争点に浮上した、というのは事の真相だろう。

日韓両国には椅子の高さ以外に議題がないとすれば、それもいいだろうが、実際は多くの議題を抱えている。朝鮮半島は危機に直面している。同時に、日韓両国には厄介な歴史問題も抱えている。例えば、日韓両外相(岸田文雄外相と尹炳世韓国外相=いずれも当時)は2015年12月28日、慰安婦問題の解決で合意に達し、両政府による合意事項の履行を前提に、「この問題が最終的、不可逆的に解決することを確認する」と表明している。日本側としてはソウルからのゲストに、「日韓合意の進展具合はどうですか」と聞いてみたいところだろう。それが、日韓政治家の椅子の高さ論争に歪曲されてしまったのだ。これこそ韓国側の“意図的な”議題操作ではないのか、という憶測が日本側に飛び出したとしておかしくないはずだ。

韓国のゲストが「自分が座る椅子が低い」と感じる症候群は何を象徴しているのだろうか。ジークムンド・フロイト(1856~1939年)やアルフレッド・アドラー(1870~1937年)の精神分析の助けを受けなくても、「韓国側の椅子論争の背後には、日本への強烈なライバル心とその裏返しの劣等感がある」という診断が下されるだろう。しかし、それらは久しく指摘されてきたことだ。

蛇足だが、スイスのジュネーブの国連欧州本部の正面入口には有名な大きな「壊れた椅子」が飾られている。スイスの芸術家の彫刻作品だ。椅子の片足が壊れているが、これは地雷の犠牲者を象徴しているといわれる。すなわち、「壊れた椅子」には明確な政治的メッセージを込められているわけだ。

「壊れた椅子」だけではない。椅子は社会的地位や立場を表示しているケースが少なくない。会社の地位が上がれば、椅子もそれなりに豪華になり、ひょっとしたら椅子の高さも変わるかもしれない。韓国の政治家が椅子の高さに拘るのはある意味で当然かもしれないが、その反応が少々極端なのだ。

韓国人は忘れている。韓国は世界有数の輸出国であり、その文化は世界を感動させるものを多く含んでいる。どうか自信をもってほしい。どの国もいい点と悪い点がある。日本と比較する癖から脱皮すべきだろう。日本も多くの問題を抱えているのだ。比較するのではなく、助け合って足りない部分を相互補う関係をそろそろ築こうではないか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年12月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。