ベビーカーの断り方

常見 陽平

「ニッポン、死ね」

子供が生まれると、見える世界が変わる。先日もそんなことがあった。

12年間、墨田区に住んでいる。私が住んでいるのはコテコテの下町エリアだ。押上、曳舟などがだいぶ開発されたけれど、私の住んでいるあたりは相変わらず渋い感じだ。

この12年間、ずっと通っている蕎麦屋があって。特別美味いわけではないのだけど、普段、軽く食べるのにはなかなか便利で。フリーランスの頃は、週に1度は行っていたような。今も出勤しない日などはたまにお邪魔している。ちょうど今、妻子が実家に帰っていたので、久々に行ってみた。

子供が生まれるまで、気づかなかった表記が目に入った。要するにベビーカーお断り、だ。そうか、そうだったのだ。こんな断り文句が書かれていたとは。

怒りの火柱を断固として燃え上がらせようかと思ったが、冷静に読み直してみた。要するに店の通路が狭い、障子が破れるかも、と。そして、子供用の椅子はない、と。ただ、「子供は連れてくるな」とか「子供は迷惑なんだよ」と書いているわけではない。なるほど。

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ベビーカーNGというと、「キー!」となりがちなのだけど、一方で「あぁ、明らかに場所とって申し訳ないなあ」と思う瞬間があり。娘を乗せているマシンは赤ちゃん本舗で絶大なる経済力で「一番いいやつを頼む」と言って買ったもので。大変に安定しているのだが、大きい。下町を歩いていると、まるで十戒のように、海が割れるように、人がどいていく。舐められないように、普段からいかつい格好をしているからというのもあるのだが。

このあたり、子供と一緒に行動する者も、対応する店も、互いにわかりあう努力が必要だろう。納得のいく説明というやつだ。

以前、じゃらんnetのクチコミコーナーでの、伝説のクレーム対応を思い出した。「子供不可なのは納得がいかない」という趣旨のクレームなのだが、「あいにく、お子様が興味が持ちそうな面白いものが何もない宿でございます」というような趣旨の返信だった。納得感があった。

まあ、そもそも、子供連れて蕎麦屋はまだ早いのだけどね。うん、ただでさえ子供が泣き、私も大声で喋るという迷惑な家族なので、ひっそりと生きることにする。

「働き方改革」の不都合な真実
おおたとしまさ
イースト・プレス
2017-11-17


最新作をよろしく。少子化についても語り合っている。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年12月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。