「サンタクロース」と「クリスマス」の関係

11月中旬から始まったサンタクロースのシーズンは過ぎ去り、25日はようやくイエスの誕生日だ。クリスマスを迎える直前まで、欧州ではショッピングに明け暮れた人々が少なくない。24日夜か25日になれば、プレゼントを交換しなければならないからだ。だから、サンタクロースの歌声に乗ってショッピング街を彷徨ってきた。

▲甘いチョコレートケーキの上にもサンタクロース(2017年12月24日、撮影)

▲甘いチョコレートケーキの上にもサンタクロース(2017年12月24日、撮影)

ところで、なぜイエスの誕生日にプレゼントを交換しなければならないのか、真剣に考えた人は多くはないだろう。クリスマスとサンタクロースはペアを組んでいるのだ。厳密にいえば、サンタクロースがクリスマスを利用しているといった方が当たっているかもしれない。しかし、「そんなことはどうでもいい。やっと、クリスマスを迎えたのだから」と多くの人は苦笑しながら言うだろう。

欧州では昔、サンタクロースはクリスマスシーズンにはいなかったが、米国からクリスマスソングと共に、欧州にやってきた。25日のイエスの誕生日とサンタクロースは本来、まったく別だが、いつの間にか両者は一つとなった。サンタクロースが届けるプレゼントがないクリスマスはもはや考えられなくなったからだ。

当方の居間からクリスマスソングが流れてきたが、欧州生まれのソングはあの「聖夜」ぐらいで、クリスマスに口ずさむ多くのクリスマスソングは米国生まれだ。米国のクリスマスソングに乗って、サンタクロースが欧州でもその役割を果たす。

イエスの33歳の生涯やその使命について、喧騒な日々を忘れ、クリスマスシーズンに少しは考えてもいいのだが、米国生まれの消費文化はそんなことを許さない。いかにアイデアのあるプレゼントをクリスマスの日に手渡すかが最大の関心事だからだ。
誰がこんなクリスマスにしたのか、と厳しく追及したとしても今日(25日)はクリスマスの日だ。サンタクロースはその仕事を終えて既に戻っていった。欧州ではサンタクロースに代わってクリストキントが子供たちにそのプレゼントを渡す日だ。

ウィ―ン市庁舎前広場の欧州最大のクリスマス市場は今月31日のシルベスター(大晦日)に向けて衣替えをする。プンシュの代わりに豚の小物が露店を飾る。全てベルトコンベアーに乗って事は進む。

クリスマスシーズンを彩る市場も今後、「クリスマス市場」とは呼ばず「冬の市場」と呼ぼうという声が聞かれる。クリスマスシーズンを「クリスマス」を付けて呼ぶ必要性を多くの人々はもはや感じなくなってきたからだ。

欧州ではキリスト教文化がこれまで定着してきたから、路上で挨拶する時も「Gruess Gott」というのが一般的だったが、ここにきて事情が変わってきた。大学で学生が「教授、Gruess Gott」と挨拶すれば、返事をしない教授がいるという。学生が慌てて「グーテンターク」と言い直すと、「グーテンターク」と挨拶を返すのだ。存在もしないキリスト教の神の名で挨拶されたくない、というのだろう。

クリスマスはサンタクロースにその主導権を奪われ、サンタクロースと業務提携するアマゾンは益々巨大化する一方、神は人々の日常生活から追放されていく。
「欧州キリスト教文化の世俗化」という表現で問題が解決するわけではない。なぜならば、人は日常生活からかけ離れた何か“神性な”ものや存在に強い憧憬心を抱いているからだ。クリスマスにもはや神性さを感じなくなったとすれば、われわれはそれに代わる何か神性なもの、存在を緊急に探し出さなければならなくなる。

メリー・クリスマス!


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。