ネット同時配信に需要はあるか

KDDI総合研究所が発行する雑誌「Nextcom」32巻に地上波テレビのネット同時配信について需要調査結果が掲載されている。株式会社電通が実施した調査によると、調査対象7562名の42%に利用意向があるとわかったという。ドラマ・ニュース・スポーツなどの視聴希望が高く、家に戻れなかったときや録画予約を忘れたときに視聴をするという回答があった。

すでに民放はTVerという見逃し配信サービスを実施しているが、ニュースやスポーツは「ネット同時配信でなければ利用しない」という回答が多かったそうだ。結果が分かった後で、サッカーやマラソンを2時間ずっと見続けるという人は少ないだろうから、スポーツコンテンツはネット同時配信に適している。

電通によるこの調査で出色なのは、ネット同時配信を導入すると民放の総視聴時間がどう変化するか調べた部分である。現在は、リアルタイム視聴が週当たり705分で録画再生が237分、総計で980分である。ネット同時配信が導入されるとリアルタイムは695分に、録画再生は235分にそれぞれわずかに減少するが、同時配信73分が加わるため総計は1040分に伸びるというのが推計結果である。

日本民間放送連盟はネット同時配信に強く反対しているが、ネット同時配信には、リアルタイム視聴を「共食い」するよりも、新たな需要を掘り起こす効果があることが、推計結果から読み取れる。

テレビの強みはコンテンツの質であり、素人動画で太刀打ちするのはむずかしい。この良質なコンテンツを配信するチャンネルが電波・ケーブルに加えてもう一つ増えるネット同時配信は、テレビ局にとってビジネスチャンスである。

先般、電波改革について緊急シンポジウムを実施したが、そこでもテレビの未来が話題になった。テレビの強みは電波による配信ではなくコンテンツであるというのがシンポジウムの結論である