昨今ニュースなどでよく聞く「エビデンス」という言葉について考えてみました。
一言で言えば「根拠」です
エビデンスを本当に日本語一言でいうと「根拠」です。
ただ、この根拠の取り方について実に様々な手法がある為、しばしば困惑されてしまいます。
今回はエビデンスに関わる概念の中でも特に有名な「ダブルブラインド試験(二重盲検法)」と「コクラン共同計画」の2つを中心に考察していきます。
膨大なコストの結晶:ダブルブラインドテスト
はじめに「ビスホスホネート製剤」という骨粗鬆症(こつそしょうしょう)(加齢などで骨が弱くなり、軽くつまずいた程度で簡単に骨折してしまう病気)の治療薬が市場に出るまでに製薬会社(アメリカ・ドイツ)が経た道を振り返りたいと思います。
薬のコンセプトが考案され動物実験で一定の安全性が確認されると「治験」と呼ばれるステージに移ります。
本製剤で採択された治験の概要は以下の通りです。
1.骨粗鬆症である「治験者A」に本製剤を投与し12年経過観察する
2.骨粗鬆症である「治験者B」に骨粗鬆症とは関係ない薬(偽薬)を投与し12年間経過観察する
3.骨粗鬆症でない「治験者C」に本製剤を投与し12年間経過観察する
治験中、医師は(骨粗鬆症である)治験患者AさんBさん両方に「これは骨粗鬆症の薬ですよ」と医師本人も信じたまま研究所から提供された薬を出しますが、Bさんにはビスホスホネート製剤とは全く関係ない「偽薬」が提供されています。また骨粗鬆症ではないCさんの主治医には「別の薬」と称してビスホスホネート製剤が提供されています。
※もちろん、AさんBさんCさん共に予め治験者として登録されていて、こういったリスクを抱える事を承諾されています。
※このように提供者(医師)と被検者(患者)双方とも検査状況がわからない環境下で行われる検査法をダブルブラインドテストと言い、多くのエビデンス検査で採択されています。
本検査を12年間続け、治験者群ABCそれぞれの骨密度の推移と骨折発生率、副作用の有無をデータ解析して統計学的に有意な結果が出た後に、本薬は市販薬として販売開始されました。
ただ、これだけ時間と資金をかけてから世に出て来たビスホスホネート製剤でも、現在では「(特に抜歯後の)下顎骨壊死」という副作用が報告されているのも事実です。
エビデンスは万能ではないがないと困るもの
このように膨大なコストをかけエビデンスを揃えたにも関わらず問題が起こるケースは数多にあります、従って個人的には「エビデンスが取れた≒正しい」と強く主張なさる「宗教法人エビデンス」的な皆さんにも首を傾げたくなる時がままあります。
ただ、だからといって「エビデンスなんていらない」という発想には全くついていけません。
「家の鍵をかけて外出したというのに空き巣に入られたから、もう鍵はかけない」と言っているようなものです。
エビデンスは現在の我々生活に欠かせないものです。ただ、万能ではないのです。
こうなって来ると「エビデンスそのもの」と同じくらい「誰がエビデンスを取ったのか? 」即ち「家の鍵のブランド」が重要になって来ると思います。
医療分野に於けるエビデンスについてはコクラン共同計画からの情報(コクランレビュー)が世界的に有名です。
これはイギリスに本部がある機関で、世界中の様々な医療・健康に関わるデータ分析と公開を執り行っています。
また最近の国内報道ではネイチャーなどの海外論文雑誌での投稿をピックアップするケースが多くなって来た気がします。
エビデンスの弱点
エビデンスを熟知するものほどエビデンスの弱点も熟知しています。
エビデンスの殆どは数字を始めとした客観データを基盤にして算出されます、逆に言うと客観化が困難なデータからエビデンスを取るのは困難を極めるのです。
客観化の難しい具体例としては「痛み」「痺れ」「不安感」など挙げられます。
最近はペインスケールと言う検査法もありますが、これもいわばアンケート検査ですので血糖値や骨密度の様にはじめから数値化出来る媒体と比べるとデータ化は容易ならざる所があります。
このエビデンスの弱点を象徴する事例のひとつが子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の副作用問題だと思っています 。
私個人は副作用に悩む皆さんが嘘をついているとは全く思っていません。ただ、客観計測できる症状がひとつもないとなると、研究者がエビデンスを固めるのが相当大変だろうなとも思っています。
また主観・客観問題とは少し外れますが、主観データも大量に揃えば信ぴょう性は高まるのですが、現段階のデータ内で導けるのは「諸外国と比べて日本での副作用発症率が飛び抜けて多い」という点のみではないでしょうか。
そこから僕が思いつける可能性は「患者さんはワクチンとは全く関係ない別の因子が影響して発症した」或いは「別の因子がワクチンに影響を与え、発症した」この2点のみです
本問題の解決にはこの「まだ見えぬ因子の究明」こそが鍵になる気がしてなりません。
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天野貴昭
トータルトレーニング&コンディショニングラボ/エアグランド代表