2018年都知事選はあるか ⁈ ポスト小池を占う

新田 哲史

都庁サイトより

安倍首相が旧年中に解散総選挙に打って出たことで、国政選挙は来年の参院選まで基本的になくなり、2018年の政治日程でハイライトと目されているのは9月の自民党総裁選くらいだろう。宮崎や滋賀で知事選はあるものの、全国区での注目を集める大型選挙は沖縄知事選くらいで、中央政界への順当な見方としては“凪”のフェーズに入る。

“小池おろし”の風は吹くのか?

しかし、あらためて言うまでもなく政界の一寸先は闇だ。都知事選で地滑り的な勝利を収めた小池氏が、わずか1年数か月という短期間で現在のような惨憺たる状況になることなど、昨年の正月に予想した者は、反小池派のなかですらほとんどいなかったのではないだろうか。可能性はかなり少ないということを前置きした上でだが、筆者は、2018年中に都政での小池おろしが本格化し、再び都知事選になるシナリオが現実になるのかどうか注視している。

もちろん、小池氏が2020年7月末までの任期を全うする意思がある限り、現行制度では“小池おろし”は容易でないことくらいは承知している。

地方自治法上は知事を任期途中でおろすには①「都議会の不信任決議」か、②「住民による解職請求(リコール)」があるが、①については、衆院選前まで知事与党だった都議会公明党が離反し、都議会で過半数は割れてはいる。しかし、不信任決議の成立要件は3分の1以上出席で「4分の3以上」の賛成だ。現有126人全員が出席したとすると、95人。都民ファーストの会以外の全会派が賛成しても73人にしかならないので成立しない公算だ。

一方、②のリコールについては、衆院選時の有権者数(1120万)を目安にすると、都民の約170万程度の署名を集めなければならない。この数字は1999年都知事選で初当選した石原慎太郎氏(166万)や、2007年選挙で次点だった浅野史郎氏(169万)、16年選挙で次点だった増田寛也氏(179万)らの得票数に匹敵する膨大な数になるため、物理的にほぼ不可能といえる。実際、過去の都道府県知事でリコール成立事例がなかったことを考えても基本的にありえない。

都議会は風雲急を告げるか(Wikipediaより)

求心力が急低下。予算編成の議会は乗り切れるか?

しかし、だからといって小池氏が安穏としていられるわけでもない。前任者の舛添要一氏が任期途中で辞職に追い込まれたのは「世論」の力に抗しきれなかったからだ。

小池氏の都民の支持率は秋の衆院選を境にして58%から37%に急落(JX通信社調べ)。さらに産経新聞とFNNが年末に行った調査では29%に低迷しており、今年に入っても当面好転させる材料は見当たらない。むしろここにきて都知事選、都議選で小池氏に苦杯をなめさせられた自民党都連は、下村博文前都連会長や内田茂前都議らが復権しつつあり、今度は逆に小池氏が求心力を失って16万人の職員を擁する巨大官庁・東京都庁を御し続けられるのか厳しい見方が支配的だ。

その意味で過半数を失った都議会で、新年度予算を無事に通過させ、あるいは最大の懸案である市場問題追及をかわすことができるのか、議会だけでなくマスコミからの追及、さらには都民の厳しい目がふりそそぐことになる。昨年の第1回定例会は、小池人気の迫力で反対派の声を封じ、44年ぶりに予算案を全会一致で通過させる異常なほどの求心力があったが、今年は不満や批判が噴出して議会の光景も一変するのではないだろうか。

その結果、万が一の可能性に過ぎないとはいえ、先述した①の不信任決議が出る局面に陥り、反小池の厳しい世論をバックに、自民党が得意の調略戦を発揮。都民ファーストの会から20人あまりの造反者を出すような“神展開”がまったくないと言えるのか、ここは非常に興味深いところだ。

また、不信任決議が通った場合に、小池氏が“逆ギレ”で都議会を解散して選挙戦に持ち込んだり、あるいは敢えて失職からの出直し選挙を選んだ長野県知事時代の田中康夫氏のような展開もありうる。しかし、いまの小池氏が出直し都議選 or 都知事選に勝利するだけの政治的体力を残しているようには思えない(なお、都民ファーストの会の都議たちがどういう対応を取るかの予想は「ポスト小池」のくだりで後述したい)。

もちろん、そこまで妄想レベルの政局シナリオである必要はなく、前任の舛添氏と同じく“小池おろし”の風がスキャンダルによって猛烈に吹き始めることもありうる。小池氏の政治資金を巡っては週刊誌や敵対勢力が都知事選当時から入念に調べている。あるいはカネがらみではない醜聞が噴出することもあり得る。左派勢力が安倍政権に“モリカケ”問題のキャンペーンを仕掛けたように実態とは別にしたネガティブ宣伝が奏功し、小池氏が情報戦で敗れた末に辞任に追い込まれる可能性がゼロとは言えない。

「ポスト小池」は結局テレビ的知名度がモノを言うのか?

さて、あくまで“万々が一”の可能性ではあるが、仮に小池氏が任期途中で辞職したとしよう。

これにより、新知事の任期はオリンピック・パラリンピック開催期間後となることで、大会直前の任期満了・都知事選という事態は回避される。しかし、肝心の「ポスト小池」にあがりそうな人物はというと、これも探すのが簡単ではない。小池都政への反省から新知事に実務能力を求める声は強まりそうだが、1995年にタレント出身の青島幸男氏が当選して以降、我が国最大の「テレビ選挙」と化してしまった都知事選ではテレビ的な知名度も兼ね備えていないと勝利することができず、実務能力と知名度を天秤にかけた選挙費用50億円のセレクションに都民は再び苛まれそうだ。

橋下氏(ツイッターより)

タブロイドメディアからまず名前が上がりそうなのは、橋下徹氏。政界復帰の支障とされたテレビ朝日のレギュラー番組が終了したことで現実味はアップしている。もし橋下氏が都知事になれば、ここのところ党勢が低迷して危機的な状態にある維新のプレゼンスを浮揚させるだけでなく、苦手の首都圏に強力な橋頭堡を築くことができる。自民党にとっては痛し痒しだろうが、憲法改正を目指す安倍首相にとっては心強いことではある。

先ごろの新刊『橋下徹の問題解決の授業 大炎上知事編』(プレジデント社)の中身が知事職をテーマにしているとあって、一部で憶測も呼んでいるようだが、橋下氏から正月早々「ボケ!」と一括されそうなのでこの辺にしておこう。

橋下氏が出馬しない場合、維新系では東国原英夫氏の名前がまた挙がるだろう。2011年知事選では次点と健闘。事前の情勢調査では当時現職の石原氏が引退していた場合にはトップ当選の見込みが出ていたことで、石原氏が引退を撤回したという経緯がある。前回都知事選は突然のこともあってか出馬しなかったが、今年で政界を離れて5年。一つの区切りを迎える。

東国原氏(ツイッターより)

また維新系で同じく浪人中の中田宏氏の動向も焦点になりそうだが、横浜市長時代のイメージが強く、都民にどこまで浸透するか未知数の部分も多い。

中田氏(公式サイトより)

自民党からは、丸川珠代氏の国政からの転身が以前からささやかれている。環境相、五輪担当相を歴任しており、知事転身前の大臣経験という点では小池氏に並んでいるが、しかし、巨大官庁を任せるだけのリーダーシップ、経験が不足しているという評判を覆す必要がありそうだ。

丸川氏(ツイッターより)

嵐の櫻井翔氏の父としておなじみ、櫻井俊・前総務事務次官は、また名前が挙がるであろうし、もし自民党が擁立できればかなり有力になるだろうが、前回も家族への影響から出馬を見送ったことや、電通に入社したばかりであることも考えると、可能性は低そうだ。

桜井氏

鈴木氏(公式サイトより)

同じ官僚出身では、かつて東京選挙区の参議院議員だった鈴木寛氏(現東大・慶応大教授)の名前も挙がるかもしれない。13年参院選で落選後、民主党を離党。その後、安倍政権下の文科相大臣補佐官として異例の2年半、下村、馳、松野の3代の大臣を補佐。自民、公明、希望の旧民進保守系議員などが相乗りして擁立もありうるが、本人が政治家復帰をどう考えているか、かつて広報担当として仕えた筆者も本音はわからない。

残党勢力となった都民Fは分裂?音喜多新党も?

対するリベラル系野党は、衆院選を経て民進党が3つに分裂してしまったので、現在の構図のまま都知事選を迎えた場合、まともに戦えるかますます難しくなりそう。

長島氏(公式サイト)

前回選挙前は長島昭久氏が自民、公明、民進の相乗り候補として名前があがったが、希望の党入りによって、少なくとも左派勢力は神輿の担ぎ手にはもうならない。保守政治家として自民党とも防衛安保などで親和性はあるが、自民党にとってもわざわざ現職の他党議員を担ぎ出すインセンティブは働きにくい。

むしろ、先述した小池氏の“残党勢力”となる都民ファーストの会の都議たちがどういう出方をするのか注目だが、“小池系”の旗印として希望の党所属の国会議員から独自候補擁立を目指すのであるならば、長島氏しか選択肢がないが、都内唯一の小選挙区選出議員を失うことになるので希望の党単独擁立の芽は難しそうだ。

長島氏を擁立するどころか、都知事選への対応によって、主を失った都民ファーストの会は、さながら本能寺の変のあとに織田家が羽柴派、柴田派に分裂したような顛末になるのではないか。おそらく旧民主・民進党出身都議たちはリベラルシフトを鮮明にして、場合によっては立憲民主党側に組み込まれ、野党共闘路線に活路を見いだす者も予想される。

音喜多氏(Blogosより)

その一方で、小池氏の政治塾出身者や、先に離党した音喜多駿氏らに考え方が近い若手議員たちは、旧来型リベラル勢力にとりこまれるのをよしとせず、独自の動きをするだろうとみている。

音喜多氏は離党後、自民党に行く選択肢もあったはずだし、本気で総理大臣を目指すならそうしたほうが賢明とは思うが、どうやら独自の政治勢力結集を視野に入れている節がある。直近の都知事選への出馬はさすがにないだろうが、ここまで積み重ねた圧倒的なテレビ露出による知名度リソースをどう活用するか、メディア選挙になる東京の選挙で一定の支持は集めるはずなので、バルカン政治家に終わるか、異形の本格保守改革政治家として成長するか、都知事選への対応も鍵を握るはずだ。

野党側の主導権は立憲民主党。蓮舫氏の出馬はあるのか?

どちらにせよ、野党側の主導権を握るのは当面、都内の衆院選で4人の小選挙区選出を果たした立憲民主党だろう。前回都知事選で鳥越俊太郎氏を担いだような、知名度のみの候補者擁立はまさか繰り返すことはあるまいが、共産党との野党共闘路線で今度は本気で勝ちに来て美濃部都政の再来を狙うかもしれない。

折しも年末、前回の都知事選でも出馬が取りざたされた蓮舫氏が立憲民主党に入った。当時と違うのは、二重国籍問題への対応で失態を演じたマイナスイメージが大きいが参院選東京選挙区で連続トップ当選の抜群の知名度はあり、もし都知事選という事態になったら枝野氏が説得するのではないだろうか。

蓮舫氏の動向は?

しかし、蓮舫氏でないにせよ、左派勢力の野党共闘路線が堅持されるとなれば、前回に引き続き、宇都宮健児氏が推薦されることはなさそうだ。さすがの枝野氏も左派色が強すぎる宇都宮氏支援には首を縦に振らないだろう。

宇都宮氏(日本記者クラブサイト)

ただ、宇都宮氏は、都知事選直後に小池氏に築地問題で申し入れをしたり、政治団体「希望のまち東京をつくる会」のウェブサイトの発信をしたりするなど、都政への関心を示し続けている。支援者のなかには、前回の野党共闘で降ろされたことへの反発心は残っているはずで、過去2度の都知事選で2度次点だったものの、2018年には72歳。最後のチャンスとばかりに出馬を決断することも十分考えられる。

なお、左派でほかに見当たりそうな候補として、来年に参院選改選期を迎える山本太郎氏もいるが、落ちても翌年国政復帰すればいいやとばかりに運動目当てで出るのかどうか。まあ、出ようが出なかろうが、マック赤坂氏と並んでネタ枠の一人に過ぎまい。

いずれにせよ、今年小池氏を引き摺り下ろして、都知事選を行うことになれば2012年以降、6年間で4度目という異常事態になる。小池氏を支持しない都民の間でも「選挙疲れ」「政局嫌忌」のムードは漂う。一都民として願わくば、都政が無駄に混乱しないよう、小池氏には苦手かもしれないが、世間からフルボッコされた状態でまっすぐ課題に真摯に向き合ってもらい、自民、公明など他会派も是々非々で建設的に市場問題、五輪準備に対応してもらいたい。