政権の支配下に入った財界
経団連の次期会長に、日立製作所の中西宏明会長(71)の就任が確定しました。製造業出身、経団連副会長、国際経験の3条件を満たし、適任とされています。そうでしょうか。選定経過をみると、時代は激変していくのに、経団連は旧態依然という思いを抱きます。
会長人事で先行した日経新聞には、「最後に残った大本命、政権との近さが決め手」という記事が載っています(12月29日)。読売も毎日も「政権と太いパイプ」、朝日も「首相とも親交が深い」との説明を書いています。先ほど述べた3条件に加え、政権や政治との関係が選考過程で重視されたとみられます。
かつて経団連会長は「財界総理」とまで呼ばれ、首相と適度の距離を保ち、経済政策ばかりでなく、政治の方向性にも発言力を持ちました。豊富な政治資金も物を言ったことでしょう。最近は「落日の経団連」、「経団連会長は政権の経済局長」と批判されます。
現在の榊原会長が選考(任期4年)される際、適任者が見当たらず、本人も最後まで固辞したそうですから、ご本人を責めるのは酷かもしれません。それならなおさら、政治との距離を意識した後任人事をやって欲しかったのです。
政治の指導がないと動かない
榊原氏の前任の米倉氏(住友化学)は、政治にずけずけと発言しました。ただし、経団連会長としては、あからさま過ぎた「アベノミクスは無鉄砲」との批判などがたたりました。発言の中身は正論でも、首相の感情を害し、関係が悪化しました。その修復のために榊原氏はことさら低姿勢に徹したのでしょう。それにしても、経団連の存在感は落ちました。
経団連は特に安倍政権になってから、政治に押しまくられています。「首相が3%の賃上げを経済界に要請」、「教育無償化、待機児童対策で、3000億円の拠出を企業に要請」、さらにあちこちから「巨額の内部留保を企業に吐き出させる」との雑音も上がりました。
基本的な経営方針にまで、首相に口出しされても、経団連会長は音無しです。産業界は財政拡大、異次元緩和、円安、株高という何本足かの竹馬に乗っています。これだけ政権に助けられると、財界も政治主導ですかね。一方、その代償は大きく、政府依存の日本企業は、ぬるま湯に浸かり、次の時代に向けた新分野の開拓で見るべきものありません。
安倍政権は小選挙区制のもとで、立候補者選定の決定権を握っています。官僚は人事権をこれも官邸に握られ、覇気を失っています。政治からの独立性をもつべき日銀の総裁人事も、安倍首相の思いのままです。この上さらに、経団連の会長人事で「政権との近さ」が理由にされるようだと、自らの足で立つ自由な発想、行動力が失われていきます。
どこで人事を決めたか不透明
会長人事の報道で不思議に思ったのは、各紙は「経団連は中西氏を会長に起用する」と表現し、経団連のどこが後任人事を決めたのか触れていません。社長人事は部外者を加えた指名委員会が多様な意見、評価をもとに候補を決め、最終的には株主総会、決算取締役会などを通して決める企業が増えています。
これが正解です。人材を広く集める透明性のある決定方法をとるべきです。米国では、製造業でなく、グーグル、アップル、マイクロソフト、アマゾンなどソフト力を存分に生かした企業が最上位を占め、旺盛な成長力を持っています。
日本もこうした産業、企業群が伸び、存在感を高めていかないと、安倍首相の口ぐせである成長政策も掛け声倒れに終わります。まず、企業の総本山である経団連が重厚長大型の意識からから脱皮する必要があります。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年1月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。