年初ということで2018年の金融市場動向についていろいろと予想や予測が出ていると思うが、意外性のあるものとして物価が日銀の金融政策の目標としている水準に達するというビックリ予想が現実化する可能性が出てきた。
日銀が金融政策において政府と共有して目標としているのは消費者物価指数である。以前は消費者物価指数の総合であったが、2016年9月の決定会合で長短金利操作付き量的・質的緩和を決定した際、日銀はこの目標とする物価を総合から除く生鮮(コア)に置き換えているので、現在はコア指数(以下、コアCPI)を見る必要がある。
このコア指数に大きな影響を与えているのは、日銀の金融政策である、と書いたら納得するであろうか。少なくとも私は納得しないし、むしろ何を言っているのだとの反論が多数くることも予想される。日銀の金融政策で物価を動かせるのかとの議論はここ5年程度で決着を見た気がするが、それはさておき、コアCPIを大きく動かせる要因に原油価格がある。
新年早々の東京株式市場は日経平均がいきなり大幅高となり、幸先の良いスタートとなった、この背景にあったのが米国株式市場の上昇であるが、その背景に経済指標により世界的な景気の拡大が明らかになったことや、景気拡大による需要拡大を見込んだ原油価格の上昇があった。
その原油価格のベンチマークといえるWTIが2015年につけた61ドル台の目先の高値を抜いてきたのである。このまま原油先物の上昇基調が止まらないとなれば、次の節目は100ドルあたりまで特にない。WTIが100ドル台を回復する理由はいまのところ見あたらないが、今後さらに世界的に景気が拡大する可能性もあり、過剰流動性による余剰資金が入り混むなどすれば、WTIの100ドル台回復が絶対にないとも言い切れなくなってきた。
日銀の目標のコアCPIの数値は前年比であり、このまま原油価格が上昇基調を続けると当然、CPIに大きな影響を与える。実はこのコアCPIが2%を超えたことが、2000年台にも存在した。2008年7月に日本のコアCPIは前年比2.4%増、8月にも同2.4%増となっていた。このときの物価上昇は、瞬間147ドル27セント(7月11日)、 引け値で145ドル29セント(7月3日)まで急伸していたWTIによるもの、つまり原油価格の急激な上昇によるものであった。
この背景にあったのが中国など新興国の経済成長による原油への需要の拡大とそれを見越した動きとも言えた。しかし、そのタイミングではすでにサブプライムローン問題が金融市場を脅かしており、その後リーマン・ショックに代表される金融経済危機によって原油価格は急落し、日本のコアCPIも前年比は2009年3月にマイナスに転じている。
この経験もあってか日銀は「2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続する」としている。つまり何かのきっかけで瞬間的に2%をつけてもそれは物価目標達成とは認めないと意地を張るようである。
そうはいっても、仮に2%の物価目標が原油価格の上昇を主因に、少し気の早い消費増税の駆け込み需要なども巻き込んで達成されたらどうるのか。世界的な景気拡大、雇用のタイト化等々、物価を側面支援する要因も多くなってきている。これはどうも絵空事ではなくなってきている。むしろ物価目標に固執するあまり身動きの取れない日銀にとっては、より柔軟な政策に変更する良いタイミングとなるかもしれない。
異次元緩和を含むアベノミクス政策によって、時間はかなり掛かったものの、物価目標の達成が見えてきた。デフレ脱却は間違いない。アベノミクスを支えるリフレ政策は間違っていなかった?(間違っていたとは思うが)。そうなのであれば、マイナス金利政策を修正し、ステルステーパリングではなく、正式にテーパリングも開始することが、物価目標達成とそれによるデフレ脱却をより広くアピールできると現政権に説明すれば、日銀の意地元緩和政策ではなく、異次元緩和政策の軌道修正も可能なのではなかろうか(期待をこめて)。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年1月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。