独「大連立」は国民の支持得るか

ドイツで12日、与党「キリスト教民主同盟」(CDU)のメルケル首相とその姉妹政党、ミュンヘンの地域政党「キリスト教社会同盟」(CSU)のゼ―ホーファー党首、そして「社会民主党」(SPD)のシュルツ党首の3首脳が大連立政権発足の予備交渉を終えて記者会見に臨んだ時、CDU/CSUとSPDの大連立政権の再現はほぼ確実となったと受け取られた。3党首からは昨年9月24日の連邦議会選(下院)後続いてきた「新政権空白」の政治危機を乗り越えたといった満足感すら感じられたほどだ。その1日後の13日、SPDのザクセン州党大会は大連立政権に反対を表明したのだ。

▲大連立交渉で楽観的な見通しを語るシュルツ党首(2018年1月11日、SPD公式サイトから、写真ドイツ通信)

▲大連立交渉で楽観的な見通しを語るシュルツ党首(2018年1月11日、SPD公式サイトから、写真ドイツ通信)

ドイツのザクセン=アンハルトルト州党大会で同州青年部が提出した大連立反対の動議が52票対51票の微差ながら採択された。同州SPD青年部はCDU/CSUとの大連立発足に反対を宣言し、「他の選択肢を探すべきだ」と主張している。

ちなみに、同州党大会にはガブリエル外相が招かれ、大連立交渉の支持を訴えたが、成果はなかったわけだ。大連立反対派は、「大連立交渉でわが党の政策は余り反映されていない」と主張し、難民政策でCDU/CSUの難民受け入れ最上限導入を容認したことに批判が集まった。

SPD党幹部会は12日、賛成多数で大連立交渉に「GO」を出した。それを受け、SPDは今月21日、臨時連邦党大会を開催し、予備交渉の結果を報告し、大連立交渉を支持するか否かを最終決定することになっているが、その矢先にザクセン州SPD大会で反対が多数を占めたわけだ。シュルツ党首はショックを隠し切れない。

もちろん、党大会でのサクセン州党代表は7人だ。党全体(600人)への影響は少ない。しかし、大連立に反対しているのはザクセン州だけではない。「メルケルCDUとの大連立はもうコリコリだ」といった声がSPD内左派から急速に飛び出してきている。

最大の党員数を誇るノルトライン=ヴェストファーレン州のSPD内でも大連立に対して懐疑的な意見が多い。ヘッセン州SPDでは13日、予備交渉で合意した内容に追加要求の声が出てきた。メクレンブルク=フォアポンメルン州のマヌエラ・シュヴェーズィヒ州首相(SPD)は「大連立の再現には懐疑的だ」とメディアとのインタビューに応えるなど、大連立発足の見通しは不透明感を帯びてきたのだ。

党内の大連立反対派に対し、シュルツ党首は、「交渉では基本年金の見直し、短時間労働者の権限強化などの要求を貫徹した。難民政策では年間18万人から22万人の受け入れで一致したが、最上限導入を受け入れてはいない」と反論し、「予備交渉では党が要求した80%の内容は受け入れられた」と説明、党大会で理解を求める考えを明らかにしている。

CDU/CSUとSPDの大連立交渉がスタートできない場合、メルケル首相に残された選択肢は少数政権を発足するか、新たに選挙を実施するかの2通りしかないが、両者のシナリオは「政治の安定」というメルケル首相の期待に応えるものではない。結局、新鮮味に欠けるが、政治の空白を克服するために大連立政権の発足以外にない、というのがドイツの現状だ。その際、閣僚に若手を投入するなど人事面で新風を吹き込むなどの対応が必要だろう。

世論調査によると、ドイツ国民は大連立の繰返しより、新たな選挙の実施を願っている。メルケル首相のCDU/CSUは昨年9月の総選挙で第1党の地位こそ維持したが、前回2013年の得票率を8・6%減少させた。一方、SPDは前回比で得票率では5・2%減に留まったが、20・5%の得票率は党歴代最悪の結果だった。その両党の大連立政権の焼き直しに国民は納得するだろうか。CDU/CSUとSPDが越えなければならないハードルは高い。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年1月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。