【映画評】5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生

Mein Blind Date mit dem Leben: Als Blinder unter Sehenden. Eine wahre Geschichte

ドイツ人の母とスリランカ人の父の間に生まれたサリヤ、通称サリーは、学校を卒業後、立派なホテルマンになることを夢見ていた。だが突然、先天性の視力を失う病気に襲われる。手術後に何とか保てたのは、健常者の5パーセントほどの視力だった。周囲からは障害者の学校への転入を勧められるが、夢をあきらめたくないサリーは、何とか学校を卒業。視覚に障害がある事実を隠してホテルに願書を提出したサリーは、ミュンヘンの5つ星一流ホテルから研修生としてチャンスを得る。母、姉、友人のマックスら、周囲に助けられながら、サリーの、ありえない挑戦と想像を超えた困難の日々が始まった…。

視力の95パーセントを失った青年が、一流ホテルで働く夢を実現させるために大芝居を打って奮闘する姿を描く「5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生」。いくらなんでもありえない!と思ってしまうが、なんとこのお話は実話だ。モデルになったのはベーチェット病を患ったサリヤ・カハヴァッテ。絶望的に困難な状況でも、失わなかった超ポジティブで圧倒的な意志の強さに、ただただ驚いてしまう。見えてないのに見えるふりをするのは確かに“嘘”かもしれないが、サリーのそれは、夢をあきらめないための“武器”になった。

見えるもののほとんどがぼやけた光の集合体という状況で、いったいどうやってホテルマンのスキルを磨くのか? 接客やテーブルセッティング、厨房や客室業務など、山ほどの疑問に、物語は驚きの方法で答えてくれる。上手くいきすぎ? もちろんそれはそうなのだが、懸命に頑張るサリーには強力な助っ人たちがついていた。シリアスな描写ばかりではなく、見えないからこそのエピソードは、時にはクスリと笑える楽しいものも。サリーがストレスのあまりドラッグに手を出すことや、サリーの父の失踪など、中途半端なエピソードが少々気になるが、何しろこの奇跡的な実話は、挫折しながらも決して夢をあきめなかった青年の挑戦を通して、幸せの意味を教えてくれる奮闘記。結果を知っているのに、最終試験の場面はやっぱりドキドキし、ラストのサリーの選択には拍手を送りたくなる。サリーの障害は、私たちの誰もが大なり小なり持つ欠点の象徴だ。ちょっとくらいの困難でヘコんでいる場合じゃない!人懐こい笑顔が魅力の主演のコスティア・ウルマンの好演が心に残る。
【60点】
(原題「MEIN BLIND DATE MIT DEM LEBEN/MY BLIND DATE WITH LIFE」)
(ドイツ/マルク・ローテムント監督/コスティア・ウルマン、ヤコブ・マッチェンツ、アンナ・マリア・ミューエ、他)
(ハートフル度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年1月17日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。