財政施策よりも金融政策よりも、遥かに効果的な経済政策とは!

1989年に「フォーブズ」誌が発表した世界長者番付のトップは、堤義明氏でした。2位には森ビルの森泰吉郎氏が入っています。

ちなみに、2017年のトップはビル・ゲイツ氏で2位はウォーレンバフェット氏です。

日本人が世界長者番付の1位と2位を占めていたのですから、ビル・エモット氏が「ジャパンアズナンバーワン」という本を書いたのも頷けます。

この背景にあったのは、日本企業の技術力でも国際競争力でもありません(これは現在でも世界トップレベルです)。

単に不動産価格が高かったのです。

堤氏や森氏は、直接的や間接的に高額な不動産を所有していたのです。東京23区の土地でアメリカ全土が買えるという時期もありました。

不動産価格は1988年まで上昇を続け(とりわけバブルと言われた時代の上昇率は異常なほどでした)、1993年を境に大きく下落しました。

東京23区の平均地価は、1988年には1平方メートル当たり1400万円近くだったものが、約5年後の2003年には400万円強まだ下がりました。多少持ち直した昨今でも、せいぜい600万円未満です。

「日本は国土が狭いから土地が値下がりすることはない」という土地神話は、銀行融資を活発化しました。

高度経済成長が終わっても、上昇し続ける土地さえ担保に取れれば安心して融資ができたからです。

地価の急騰は銀行貸し出しを増加させ、市中に莫大なマネーが出回りました。

あぶく銭を惜しみなく使うバブル紳士をはじめとする不動産長者たちが個人消費を押し上げたので、その恩恵は裾野にまで及びました。

現在苦境にあえいでいる飲食業は、当時は絶好調でした。

住宅ローンで家を建てたりマンションを買ったりした一般庶民も、持ち家の評価額がどんどん上がっていくので、将来不安を感じることなく消費をすることができました。なにせ、国土の狭い日本の土地は値下がりしないと確信していましたから。

その後、総量規制をはじめとする政府・日銀の人為的地価の引き下げで、土地の資産価値が大暴落したのは周知の事実です。

1995年に大都市法が改正され、それまで容積率が200%程度だった工業地域が軒並み600%に引き上げられました。湾岸部の工場跡地にタワーマンションが建設され、都心回帰の流れが加速しました。今やバブル時代に郊外に広がってしまった住宅地の空き家問題まで発生しています。

このように考えると、バブル経済は「国土の狭い日本の土地は値下がりしない」という土地神話が最大の原因であり、容積率によって上空の利用を規制していた政府に大元の責任があるように、私には思えます。

バブル前から新宿副都心には高層ビル群がそびえ立っていました。高層ビルを作る技術は十分あったのです。

もちろん、容積率の決定には周囲の環境への配慮など多くの要素を必要としますが、住宅価格が高騰した時、どうして容積率緩和によって高騰を抑えようとしなかったのか、私には理解できません。

現在、都内の各所にタワーマンションをはじめとする高層建物が続々と建設されています。需給がアンバランスになれば価格急落も予想されるので、銀行も安易に不動産担保融資はできません。

日銀がいくら金融緩和をしても、市中銀行が融資をせず、また企業側も積極的に融資を求めないので、市中に出回るマネーは増えません。トリクルダウンが生じないのは当たり前です。

財政政策や金融政策といった伝統的な景気刺激策が功を奏しない今、最も効果的な政策は「規制緩和」だと私は考えています。先の容積率の緩和だけで都心回帰の大きな流れができたことが一つの証左と言えるでしょう。

海外では、ライドシェアや民泊、自動運転、その他さまざまな分野で新しい技術や産業が実用化されつつあります。

国内の多くの無用な規制は、新しい産業や企業の成長を阻害しています。解雇規制もその一つです。

厳格な解雇規制があるからこそ、雇う側は慎重になるのです。「試しに雇ってみるか」という環境になれば、人材流動化が進んで成長産業に有為な人材が集まるでしょう。

受け皿がたくさんあるので、失敗しても大きな不安はありません。

規制緩和の最大の抵抗勢力は、行政官庁でしょう。規制緩和がなされれば、自身の影響力が低下してしまうからです。天下り先もなくなってしまうかもしれません。

一人でも多くの官僚や政治家が、わが身を犠牲にしてでも国や社会の利益を優先するという志を持ってくれることを、私は切に祈っています。

中学受験BIBLE 新版
荘司 雅彦
講談社
2006-08-08

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。