過労死自殺に殺人罪が適用されるかも ⁉︎

殺人罪は、刑法199条で「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」と規定されています。

通常、加害者が被害者に刃物等で攻撃するようなケースが典型です。しかし、加害者が手を下さない殺人罪もあるのです。

生まれたばかりの赤ん坊を、親が食べ物を与えずに漫然と放っておいて餓死させたケースだと「不作為」による殺人罪が成立します。親には子供の身体を保護する義務があり、食べ物を与えなければ死に至ることを知りつつ放置したのです。このような「不作為」は「作為による殺人」と同じと評価されるのです。

昨今の判例では、強制や欺罔(欺くこと)によって自殺以外の行為を選択することができない精神状態に追い詰めて被害者が自殺したケースで、「自殺関与罪」ではなく「殺人罪」が成立すると認定したものがあります。「不作為」ではありませんが、加害者が直接手を下していないという点で、典型的な「殺人罪」とは異なっています。

従業員が「うつ病」などの精神疾患に罹患すると、様々な嫌がらせをして自主退職に追い込む心ない企業があると聞いています。

周囲の従業員を巻き込んで、「○○課長って…なんだって」などとヒソヒソ話をさせ、当の○○課長が我慢できずに「どうして俺の悪口ばかり言っているんだ!」と怒ると、「課長のことなんて話題にしてませんよ。自意識過剰なんじゃないですか」などと追い打ちをかけるそうです。

解雇規制が厳しすぎて指名解雇ができない以上、自主退職をしてもらうのが会社にとって都合がいいとはいえ、あまりの仕打ちに私は唖然としました。過労で心身が不調になり、このような仕打ちを受けた本人が自殺したとしたら、場合によっては殺人罪が適用されるかもしれません。

殺人罪の成立には「人を殺す故意」が必要ですが、「死んだとしたら、それでもかまわない」という未必の故意なら認定され易いでしょう。

昨今は人手不足で労働環境が厳しくなっています。客観的な状況から判断して、本人の自由意思で自殺したとは到底思われないケースでは、捜査機関は一歩踏み込んだ「殺人罪」での捜査も視野に入れるべきでしょう。

今までの過労自殺でも、「もはや自殺するしか道はない」と周囲の圧力で追い詰められたケースが多々あったのではないでしょうか?

人命を軽んじる人や組織には、時として厳罰で臨む必要があると思います。

荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。