きのうのエントリーは、安倍首相の施政方針演説が電波改革を盛り込む画期的な内容だったためにそちらを優先したが、もともとは、政治の玄人が注目していた河野太郎氏の外交演説を取り上げようと思っていた。
(外務省サイト)第196回国会における河野外務大臣の外交演説
首相演説と比べると、どうしても世間一般の注目度は落ちてしまいがちだが、野党からも安全保障の論客である長島昭久さんがツイッターで河野さんご本人にエールを送るほどだった。
魂がこもっていて良かったよ!
— 長島昭久 (@nagashima21) 2018年1月22日
独自の中東外交「河野カラー」前面の外交演説
その長島さんがいうところの河野さんの「魂」をもう少し具体的に考えてみたい。産経新聞の文脈(小川記者のコラム)では、北朝鮮や中国に対する「毅然とした態度」に焦点を当てがちだが、これは事実ではあるものの、やや産経バイアスな強調なされ方を感じる(笑)。やはり「河野カラー」ともいえるのは、中東外交に力点を置いているところであろう。北朝鮮や中国などを取り上げた後の5点目(全6点)で言及している(太字は筆者)。
五つ目として、私は、対中東政策を抜本的に強化していく考えです。(略)中東の平和と安定は、日本を含む世界の平和や経済の繁栄に直接関わってきます。それ故、私は、日本として、中東諸国との経済関係を強化するにとどまらず、この地域への政治的関与も強化していく考えです。日本は、宗教・宗派や民族的な観点から中立であり、中東地域になんら負の歴史的足跡を残したことはありません。また、中東に影響力のある米国と強固な同盟関係にあります。こうした強みを持つ日本だからこそ果たせる役割があります。
引用した箇所の直後でも取り上げているが、河野さんはすでに昨年9月、知的・人的貢献や人への投資などを盛り込んだ「河野四箇条」を自らの中東外交の基本方針として打ち出している。河野さんがここまで中東に肩入れする理由については、ご本人もご満悦気味にツイッターで紹介していたNHK政治部記者の記事があるので詳細は譲るが、紛争が絶えない地域に対し「宗教的にも歴史的にも中立的な立場を維持してきた日本こそが、争いの当事者間の橋渡し役」(NHK)を自負する外交は、エネルギー安全保障を確実にするだけでなく、日本外交の独自性、国際社会でのプレゼンスを高める上で非常に意義があるといえる
ネット検索量で占う「ポスト安倍」レース
長年、“与党内ひとり野党”だの、“一言居士”だの言われていたポジションからの抜てき人事から、ごぼう抜きでの「ポスト安倍」レースにおけるダークホース的存在に踊り出そうな雰囲気だ。
もう少し定量的にみてみよう。「ポスト安倍」で名前が挙がる「石破茂」「野田聖子」「岸田文雄」の3氏の検索状況とも比較してグーグルトレンドで調べてみると、「河野太郎」は「野田聖子」に次ぐ検索量。年末から年明けにかけ、上昇傾向になっているのは、上記のNHK記事などの好意的な記事が増えてきた影響とみられる。
ちなみに「安倍晋三」の検索量はやはり全員より多く、報道量からして現職の強みを見せている。
当然のことながら検索量はその人の発信力に比例している。
2012年の自民党総裁選であと一歩まで行った石破さんは、閣僚を離れてからも(離れたからこそ)積極的に情報発信への意欲が窺えるが、いかんせんモリカケ問題の際に朝日新聞などの“アンチ安倍勢力”に乗っかってしまったことで、これが右派の自民党支持者からすれば「後ろから味方に弾を撃った」的な構図にとらえられた。先ごろもウーマンラッシュ村本氏との対談企画に応じてしまうあたり、露出ありきで無理をしている印象がぬぐえない。
野田さんは総裁選出馬の姿勢を全く隠さない。駒崎さんあたりのリベラル論客との対談は人選もいいし、距離の取り方も朝日路線に踏み込み過ぎた石破さんよりはバランスはいい。2017年中の検索量をみても定期的にヤマ場を作ることに成功しており、最近も障害のある長男を連れての外遊をしたニュースで検索量を突出させている。PR視点でいえば「女性×母親×社会的包摂×リベラル」文脈で、「初の女性首相候補」ブランドをフル活用。幅広い支持層の喚起を狙い、ここまでの“NewsMaker”としての力量は一番高いといえる。
逆に岸田さんはネットでも存在感を出すのに苦戦しているのがわかる。最近、インスタグラムを開設したのは発信力が低迷気味なことへの危機感の表れだと思ったが、データでまさに裏付けられた形だ。安倍首相からの禅譲を視野に、野田さんと違って敢えて出馬を明言しないものの、名門宏池会の領袖として、昨年は派閥60周年シンポジウムを敢行して、アベノミクスと異なる経済運営への本音ものぞかせた。ポテンシャルを生かし切れていないように見える。
ブログは20周年。ネットに最も親和性のある河野さん
こうした派閥ボス級のライバルと比べ、河野さんが出色なのはネットでの存在感だ。おそらくツイッターはご自身でフル活用していて、多くの自民党政治家が一方通行の発信にとどまりがちにあって、野党時代からネット民とも当意即妙なやりとりを続けている。しかも外相に就任後も続けていて、父親の河野談話ネタでいまだに勘違いしているネトウヨからの絡みを返す生温かいやりとりも今や名物になっている。
なによりブログは昔から面白かった。今年でブログ開設から20周年と、永田町でも際立って早い。なにより筆は軽妙でかつ鋭い。行政改革や無駄撲滅といったあたりは、“与党内野党政治家”としての面目躍如。多重国籍の解消に向けた国籍法改正だとか、年金問題とか、軽減税率への懸念とか、東京新聞が面白いと言ってみたりとか、自民党だけでなく中身によっては野党議員でも嫌がるようなテーマにも切り込んできた。河野さんの持論として有名な「脱原発」さえなければ、アゴラに三顧の礼をもってお迎えしたいくらいだ。
なお、ご本人は覚えておられないだろうが、鈴木寛さんが参議院議員だった2013年5月、河野さんと新宿のトークライブ会場で共演した際に、私は広報スタッフとして随行し、楽屋で河野さんにご挨拶して選挙話(勝谷さんとも再会した記憶)。翌朝御礼にメールを差し上げると、一スタッフの私ごときにも、ご丁寧な返信をいただいて恐縮したのが懐かしい。その後、外相に就任するなど、想像もしなかったが、総裁選は次回でなくても次々回で名乗りをあげるのか、ネットにもっとも親和性のあるポスト安倍候補の動向に注目している。