ドラギECB総裁「年内の利上げなし」と発言も、ユーロ高を「警戒」せず

欧州中央銀行(ECB)は25日、フランクフルトで定例理事会を開催した。政策金利にあたるリファイナンス金利は、市場予想通り0%で維持。上限金利の限界貸出金利も0.25%、下限金利の中銀預金金利もマイナス0.4%で据え置いた。金利据え置きは10回連続となる。

資産買入プログラム(APP)は、2017年10月に変更した内容を維持し、2018年9月まで月額300億ユーロの買入を継続すると発表した。ただし、引き続き「必要とあれば、それ以上にわたって」資産買入策を維持する方針を表明、見通しや金融動向次第で、資産買入額を拡大し買入期間も延長する構えをみせた。

ドラギ総裁、記者会見の質疑応答を含むポイントは以下の通り。

(ユーロ高、金融、不動産などの市場について)
・足元の為替変動は不確実性の源であり、中期的な物価安定見通しに影響を与えるか注視する必要(requires monitoring)があ
・為替を目標としていない、重要なのは成長と物価の安定だ
・(ムニューシン財務省の「ドル安は貿易の機会を与える」との1月24日の発言に対し)為替はある程度、経済の強さで正当化される・・・問題は、為替の変動が合意された事項に含まれていない言葉によって引き起こされた可能性がある場合だ・・・IMFでの第36回国際通貨金融委員会(IMFC、2017年10月14日開催)で採択された共同声明で合意し、財務相と中銀総裁の全員が過剰な変動と無秩序な動きが経済と金融安定にマイナスの影響を与えるとの認識で一致した。我々は競争的な通貨切り下げを回避し、競争的な目的のために為替を目標としない。それが私の答えだ。
・不動産バブルを議論することはできない、価格はファンダメンタルズとほぼ整合的だ。バリュエーションの一般的な物差しはないものの、過度に価格が上昇する国や地域では、マクロプルーデンス政策が採用された(コンスタンシオ副総裁)

(緩和策について)
・引き続き金利は長きにわたり、資産買入の時期を超えて現状の水準を維持すると予想
・資産買入は月額300億ユーロで行い、2018年9月まで、あるいは必要な限り行う
・見通しが良好でなくなり、かつ金融環境が持続的なインフレ調整の道筋から逸れる場合は、APPの規模を拡大し期間を伸ばす用意がある
・我々は(緩和策をめぐり)突然の停止と、ゆるやかなテーパリングを区別する必要がある
・経済指標を見る限り、年内利上げを行う可能性はほとんど(very few)みられない

(経済見通しについて)
・ユーロ圏成長見通しへのリスクは均衡
・経済指標は、2017年下半期に予想以上の加速を示したように、活発な経済拡大ペースを裏打ちしている。
・循環的なモメンタムが力強く、経済のたるみが縮小するなかで、インフレが目標値へ向かっていく
・国内の物価上昇圧力は抑制され、持続的な上昇する確実な兆候がみられていない

ドラギ総裁、ハト派寄りの見解も忘れず。

draghi

(出所:ECB/Twitter)

JPモルガンの経済調査部マネージング・ディレクター、デビッド・ヘンズリー氏は結果を受け「ドラギECB総裁はムニューシン発言が国際協定に違反しているとの考えを隠さなかったが、一方でユーロ高に警戒を示さかった」と指摘した。むしろ、「ユーロ高が(経済成長に伴う)内生的なものとの見解を寄せた」点に注目。今回のドラギ総裁による記者会見のトーンは「ハト派寄り」だったものの、成長加速やコアインフレの小幅な改善を受け「年内にわたって、徐々に政策の正常化を進める」と予想した。

――ドラギECB総裁は、記者会見で為替動向を「注視する」と述べるにとどまり、「警戒する(vigilant)」の文言を採用しませんでした。いわゆるトリシェ・コードで、最近でもシャドー・バンキングや金融安定に係る文言で使用してきたものの、今回は見送っています。ECBスタッフ経済見通しの公表を予定しないため、経済見通しを引き上げに伴うユーロ高を心配する必要がないにも関わらず、ユーロ高牽制を強めなかったわけです。原油高の影響がユーロ高の効果を相殺すると見ているのでしょうか。ユーロドルは引き続き、短期的に1.28ドルを視野に入れた展開が続きます。

(カバー写真:European Central Bank/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年1月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。