以前にも指摘したが、1月15日の日銀支店長会議における黒田総裁の挨拶を前回の昨年10月の挨拶分と比較してみたところ、違いはわずか1か所だけとなっていた。
「物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっている。」2017年10月の支店長会議挨拶
「物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、1%程度となっている。」2018年1月の支店長会議挨拶
つまり消費者物価(除く生鮮食品)の前年比の居所だけが、ここにきての前年比での上昇を受けて「0%台後半」から「1%程度」にやや上方修正されていたが、これ以外の挨拶分には変更はない。
消費者物価指数がやっと前年比出の上昇幅を拡大させてくるという日銀にとっては喜ばしい状況に対して、実際の数字だけの変更だけに済ませたのにはいろいろと理由があろう。そのひとつが、ここで物価目標達成の可能性なりを多少でも指摘すると、特に外為市場や米国債券市場などが敏感に反応してしまう点である。
その事例となってしまったのが、先日のスイスのダボス会議のパネル討論会での黒田総裁の発言となった。黒田総裁は「賃金が上昇しつつある兆候が幾つか見られ、物価については一部で既に上昇し始めている」と英語で発言。「2%のインフレ目標ないし物価安定目標の達成を非常に難しく、時間のかかるものにした要因は数多くあるが、ようやく目標に近い状況にあると思う」と述べた(ブルームバーグ)。
23日の決定会合後の記者会見で黒田総裁は物価に関して下記のように慎重な発言をしていた。
「わが国では、景気が緩やかに拡大している一方、物価は弱めの動きが続いています。」「物価はまだ2%の「物価安定の目標」にはほど遠い状況にありますので、」
それでも一応、日銀の物価目標としているコアCPIはここにきてやっと1%が見えるところまで上昇し、今後さらに前年比が拡大していくことも予想される。ただし、これは原油価格の上昇による影響が大きいことも確かである。
しかし、日銀の物価目標はコアコア等ではなくコアである以上は目標値に接近しつつあるというのが現状である。その現状を国内では口に出せなかったのは、市場への影響とともに、仮に2%を一時的に達成できたとしても一時的なものとなる可能性が大きいからとも言えよう。しかし、海外でつい本音がポロリと出てしまったのか、それによって市場が過剰反応したともいえるのできなかろうか。
ダボス会議の黒田総裁の発言を受けて、円買いドル売りが進み、ドル円は一時108円28銭まで下落した。その後、日銀報道官が、黒田総裁の発言について、インフレ見通しを修正したわけではないと説明したことを受け、ドルは下げ渋った格好となった(ブルームバーグの記事より)。
たしかに黒田総裁の発言はインフレ見通しを修正したわけではなく、「予定通り?」に物価目標達成に向けて、やっと上昇しつつあることを示したに過ぎない。それでも市場はやや過剰に反応してしまう点も今後はさらに注意する必要はある。このドル売りで米債も売られていたことで、連鎖反応も起きている。
ただし、日銀が頑なに慎重な表現に止めるとなれば、それはそれで自らの政策の自由度を縛りかねないことも確かである。ここで求められるのが、為替市場などの市場との対話であろうか。対話がよく進んでいるのか、日本の債券市場はこのような発言に対してはほとんどビクともしていなかったが。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年1月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。