私の考えるがんプレシジョン医療の全貌を下図に示す。これらは、
1.がん細胞を見つける
2.がんの治療薬を選択する(外科療法や放射線療法が第1選択肢の場合が多いが、それらは省く)
3.がん免疫療法を提供する
の3要素から成り立つ。
「プレシジョン医療」を単なる「最適薬剤を選ぶためのもの」と狭義に捉えず、5-10年後にあるべき姿の医療を見据えて、研究・開発、そして、医療供給体制の再構築も含めて考える時期に来ている。当然ながら、これらを支えるには、ゲノムを中心とするオミックス研究、免疫学研究、分子標的治療薬開発、そして、バイオインフォーマティクス・人工知能を統合的に組み合わせるとともに、医療現場に導入する際の課題にも取り組むことが不可欠である。特に、臨床応用に際しては、医療費に与える影響(私は長期的には、医療費の削減につながると信じている)も考慮しないと、臨床現場で広げていくことは難しい。最悪のシナリオは、海外の診断法やシステムが導入された結果、自費診療や自由診療の形で実施され、貧富の差を生んでいくことだ。誰でも、いつでも、どこでも平等に医療にアクセスできる現行制度を維持するための工夫が必要である。
がんに限らず、大半の疾患は、高齢化と共に罹患率が上昇する。団塊の世代が75歳に達する2025年ころには、医療費は急増すると予測されている。無理な医療費抑制策は、確実に医療の質の低下を招く。といって、現状のままでは、国が負担する予算が際限なく膨らむ可能性がある。治療法のない疾患は別だが、がんも含め、治療可能な病気は早期発見が絶対的に重要であり、予防可能なものは予防に注力した方がいいにきまっている。
がんの治癒率を改善するためには、「早期発見率を高める」、「再発をできるだけ早く見つけて、治療を開始する」、「画期的な新規治療薬を見つける」ことが求められる。このうち、早くがんを見つけることに関して、ゲノム解析は非常に重要になってきている。前述したように、がんの遺伝的リスクを高める決定因子・危険因子は多数見つけられている。これらの情報を元にした個別化検診スケジュールを作成していくことが必要ではないだろうか?もちろん、後述するようなリキッドバイオプシーが安価で高い精度でできるようになれば、かかりつけ医で頻回(1年に2回程度)に検査を受け、画像や内視鏡検査などを個別のリスクにしたがって受けるようなシステムも考えられる。
編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年1月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。