「フルスペックの集団的自衛権」は必要だ

池田 信夫

国会で安倍首相が「第9条2項を変えることになれば、書き込み方でフルスペック(全面的)の集団的自衛権が可能になる」と答弁して、石破茂氏の提案する第2項の削除案を否定した。これに対して石破氏は「集団的自衛権を何でもやりますなんて、党として決めたわけでない」とし、第9条2項の削除が全面的な集団的自衛権の行使容認につながらないという。

首相の見解は公明党に配慮した「加憲」だが、石破氏の話は奇妙だ。第2項を削除すれば、少なくとも憲法の法文上は集団的自衛権を制限する規定はなくなる。個別の法令で制限することはできるが、それは憲法改正とは別の話だ。

2014年の安保法制懇の報告書(北岡伸一座長)では、こう書いてフルスペックの集団的自衛権を認めている。

集団的自衛権の行使を可能とすることは、他の信頼できる国家との関係を強固にし、抑止力を高めることによって紛争の可能性を未然に減らすものである。また、仮に一国が個別的自衛権だけで安全を守ろうとすれば、巨大な軍事力を持たざるを得ず、大規模な軍拡競争を招来する可能性がある。したがって、集団的自衛権は全体として軍備のレベルを低く抑えることを可能とするものである。一国のみで自国を守ろうとすることは、国際社会の現実に鑑みればむしろ危険な孤立主義にほかならない。

個別的自衛権が「必要最小限度」だという根拠は、論理的にも現実的にもない。満州事変も日中戦争も、個別的自衛権の行使として戦われたのだ。国連憲章も国際関係における武力の行使を禁じているが、第51条で「個別的又は集団的自衛の固有の権利」を認めている。

法制懇の考え方は「今日の日本の安全が個別的自衛権の行使だけで確保されるとは考え難い。したがって、『必要最小限度』の中に集団的自衛権の行使も含まれると解釈して、集団的自衛権の行使を認めるべきである」というもので、ここでいう集団的自衛権は何の制限もかかっていない。

安保法制では公明党に配慮して「武力行使の新3要件」などの制限がつけられたが、憲法改正でも第2項を残すと、改正後も国会で第2項と自衛隊の矛盾が蒸し返される可能性がある。それなら第2項を削除したほうがすっきりするという石破氏の案は合理的だが、彼も集団的自衛権はフルスペックで持てないという。

常識的に考えて、自衛権に制限をかけて自国が安全になることはありえない。集団的自衛権の限定行使についての「5党合意」では「存立危機事態に該当するが、武力攻撃事態等に該当しない例外的な場合における防衛出動の国会承認については、例外なく事前承認を求めること」となっているが、北朝鮮からミサイルが飛んできたとき、国会で審議していて間に合うのか。

憲法改正の目的は国民の安全を守ることであって、法的整合性を保つことではない。これまでの解釈で不十分だから憲法を改正するので、今の法制局見解と整合的かどうかはどうでもいい。従来の解釈と100%同じなら、解釈改憲で十分だ。憲法を改正するならフルスペックの集団的自衛権を可能にすべきであり、そうでないなら改正は必要ない。