パレスチナ解放通信(WAFA)から記事が届いた。それによると、パレスチナ自治政府のアッバス議長の国際関係担当顧問、ナビル・シャート(Nabil Shaath)氏は4日、ラジオ放送局「パレスチナの声」とのインタビューで、「河野太郎外相はパレスチナの国家認知のため(日本の)国会議員の署名を集めている」、「国会議員たちはパレスチナの認知を要求し、日本のパレスチナ事務所をパレスチナ外交代表部に引き上げることを期待している」と答えている。
同顧問は、「日本はパレスチナを政治的、経済的に支援を続けている。日本政府は、ガザ地区の水供給計画を支援し、米国のパレスチナ人道支援削減決定後、その穴を埋めるためパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金を増額している」と新たに述べた。
河野外相は昨年12月25日、中東5カ国を歴訪し、その最初の訪問国イスラエルのネタニヤフ首相とパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談し、そこで「日本が、停滞する中東和平プロセスを推進するため米国・イスラエルとパレスチナ側の仲介役を演じる考えがある」と伝えている
河野外相は自身の公式サイトの中でも、「日本政府は、トランプ米大統領の『エルサレム首都』発言で険悪な関係となった米国とパレスチナ関係の橋渡しに積極的に取り組む意向だ」と述べている。
トランプ米大統領は昨年12月6日、ホワイトハウスで、イスラエルの首都をエルサレムと見なし、米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると発表した。同発表はイスラエル国内で歓迎の声がある一方、パレスチナや中東・アラブ諸国だけでなく、欧州諸国からも「中東和平へのこれまでの努力を無にするものだ」といった批判の声が挙がっている。その矢先、河野外相は昨年末、主要国家の最初の外相として現地入りしたわけだ。
問題は、戦後から米国追従の外交路線を歩んできた日本が中東地域で果たして独自路線、新たな仲介外交ができるだろうかだ。
そこでトランプ大統領の「エルサレム首都」発言後の動向をまとめてみる。
【米国の立場】
トランプ大統領は今年に入り、早速ツイッターを通じて、「米国の巨額の経済支援は感謝されていない」として対パレスチナ支援の削減を表明。それに対し、アッバス議長は、「米国はもはや和平プロセスの仲介者の資格がない」と激怒した。米国は国連のパレスチナ難民救済事業機関に毎年約3億ドルを拠出。トランプ大統領は対パレスチナ支援を削除することで、パレスチナ側に圧力をかけてきた。
【日本の立場】
日本政府は昨年12月18日、国連安保理の「エルサレムの地位変更」を無効とする決議案に対し、米国に事前通達した後、「無効」賛成に回った。日本の基本方針は、①イスラエルとパレスチナの2国共存、②エルサレムの地位問題は「あくまでも当時国間で協議」して決定、③米国の和平交渉の関与は不可欠、という3点だ。
パレスチナに対しては、日本は①UNRWAの支援金増額、②パレスチナの経済的自立を促進させる「平和と繁栄の回廊」構想への支援強化の2本を柱としている。
先述したWAFAの記事(2月4日)に戻る。同記事の見出しは「Japan in process of recognizing State of Palestine」とかなり衝撃的だ。ただし、日本政府が公式の場でパレスチナの国家承認を表明したことはない。あくまでも「2カ国共存」という和平枠組みでの国家承認の道だ。WAFAのニュースはパレスチナ人の日本への熱い期待が込められているわけだ。
中東の原油に依存する日本としては、中東の和平実現は日本の国益に合致するものだ。イスラエル寄りを深める米国との関係を配慮しながら、パレスチナ人の権利を保護し、2カ国共存の実現に向けて仲介役を果たすという、かなり込み入った外交が求められる。トランプ氏と個人的親密関係を樹立してきた安倍晋三首相にとってその真価が問われることになる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。