ドイツで先月26日から続けられてきた与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)と野党「社会民主党」(SPD)の大連立交渉は7日、合意に達した。同国で昨年9月24日の連邦議会選後、政治空白が続いたが、CDU/CSUとSPDは新政権発足に向け大きなハードルをクリアした。
ただし、第4次メルケル政権成立までには、もう一つ大きな山場を越えなければならない。SPDには連立交渉の合意内容(全177頁)について46万3723人の全党員にその是非を問う投票が控えているからだ。SPDによると、郵送投票は2月20日から3月2日まで実施されるから、大連立政権の正式発足は早くても3月上旬となる予定だ。
問題は、SPD党員が今回の連立交渉の合意内容に反対する可能性が皆無ではないことだ。特に、社民党青年部(JUSO)では大連立反対の声が強い。
SPDは1月21日、ボンで臨時党大会を開催し、大連立発足をめぐる予備交渉の合意内容((56・28頁)について、その是非を問うた(JUSO)が、党代表642人中、賛成362人、反対279人、棄権1人で、僅差(約56・4%)で予備交渉の内容が承認された経緯がある。ちなみに、SPDが連立交渉の結果に反対した場合、①メルケル与党の少数政権、②新選挙の2つのシナリオしか残されていない。
メルケル首相は、「連立交渉が合意するまで長い道のりだったが、ドイツで安定した政権が発足できる見通しとなった」と述べた。連立交渉でCDUは国防相、経済相を含む6つの閣僚ポストを占めたが、主要ポストの財務相と外相ポストをSPDに渡し、内相をCSUに譲ったことから、寂しい成果となったことは否めない。1人のCDU幹部は、「わが党はそれでも首相のポストを得た」と皮肉を込めて語っていた。
メルケル首相にとって、SPDとの大連立政権は3回目となるが、「メルケル首相は新政権下で前政権よりその政治的影響力を失うだろう」と指摘する声が既に聞かれる。同時に、メルケル首相の後継者問題が4年の任期中に党内で浮上してくるのは必至の状況だ。
一方、シュルツ党首は7日、「連立交渉で社民党の要求を可能な限り貫くことが出きた」と交渉結果には満足を表明した。SPDは昨年9月の総選挙で得票率20・5%(前回比で5・2%減)と党歴代最悪の結果だった。その政党が財務相や外相、社会労働相など主要閣僚ポストを獲得した点で、SPDは連立交渉の勝利者といえるわけだ。
ただし、シュルツ党首は総選挙直後、「野党になる」と表明したが、その発言を翻し、大連立交渉を開始。「メルケル政権には入閣しない」と強調していたが、外相に就任することになった。欧州議会議長を5年間勤めたシュルツ党首は2度も自身の発言を翻したことから、党首として信頼性を失ってしまったことは間違いない。同党首は党内のライバル、ガブリエル氏から外相ポストを奪い、党首のポストを院内総務のアンドレア-ナーレス女史に譲る考えという。ちなみに、ハンブルク市長のオラーフ・ショルツ市長が財務相、副首相に就任する予定だ。同市長はSPDの将来の首相候補者になる。
ドイツでは連邦議会(下院)選後、CDU/CSUは自由民主党(FDP)と「同盟90/緑の党」とジャマイカ連立政権の発足を目指したが、FDPが「党の政策に反することはできない」として離脱。そのため、ジャマイカ連立交渉は暗礁に乗り上げた。
総選挙のやり直しを懸念するシュタインマイヤー大統領は政党代表を大統領府(ベルビュー宮殿)に招き、政権発足を促した。それを受け、社民党幹部会は昨年、CDU/CSUとの大連立の予備交渉を承認し、先月7日から交渉を重ね、合意し、今回大連立政権を発足させることで一致したわけだ。
メルケル首相もシュルツ党首も7日、「欧州に新しい出発を、ドイツに新しいダイナミックスを与える」と大連立交渉の成果を自賛したが、大連立政権の正式発足までまだドラマが控えている。はっきりとしている点は、第4次メルケル政権の誕生はメルケル首相にとって最後の任期となることだけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。