【映画評】星めぐりの町

渡 まち子

愛知県豊田市。妻を亡くし、自動車整備工として働く一人娘の志保と暮らしている初老の男・島田勇作は、手作りにこだわった豆腐屋を営み、毎朝時間をかけて豆腐を作っては町の主婦や料理屋に届ける毎日を送っていた。ある日、亡き妻の遠縁に当たる少年で、東日本大震災で家族全員を失くした政美(マサミ)を預かることになる。一瞬で家族を失い、親戚をたらいまわしにされ、心に深い傷を負った政美は、心を固く閉ざしていたが、勇作はそんな政美を黙って見守り続ける。頑なだった政美の心が少しずつほぐれてきた頃、町が大きな揺れに襲われ、一人で留守番をしていた政美は震災の恐怖が蘇り、家を飛び出して姿を消してしまう…。

豆腐屋を営む寡黙な老人と東日本大震災で孤児になった少年との心の交流を描く人間ドラマ「星めぐりの町」。名優にして名脇役の小林稔侍の、76歳にして初の主演作だが、「蝉しぐれ」の黒土三男監督が12年ぶりに監督するという長すぎるブランクにちょっと驚いた。昔気質の職人の老人と、心に傷を負った少年の交流のドラマは、派手さこそないが、登場人物やストーリーの誠実さに引きこまれる。愛知県豊田市を舞台にしたご当地映画でもあるが、日本の産業の根幹である、ものづくりの大切さを盛り込んでいる点もいい。

人生の大先輩である初老の男と、傷ついた少年の組み合わせは、実は名作が多い。「ヴィンセントが教えてくれたこと」ではチョイ悪のビル・マーレイが勇気と処世術を教える。「グラン・トリノ」のクリント・イーストウッドは、時には銃を構えて大切なものを守るために戦う気概を叩き込む。そんな欧米式とは対極なのが、小林稔侍の勇作だ。じっくりと少年と向き合う姿は、手間ひまをかける豆腐作りに似ている。さらに時には少年を孤独に追いやり、自分自身で乗り越えるしかないと、少年を信じてじっと待つ。昭和の時代のような価値観やベタな物語に新鮮味はないが、ベテラン俳優・小林稔侍の演技の年輪と滋味が、味わい深い余韻を残してくれた。
【60点】
(原題「星めぐりの町」)
(日本/黒土三男監督/小林稔侍、壇蜜、荒井陽太、他)
(再生度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年2月8日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式YouTubeより)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。