陸自 8輪装甲車トラブルの原因は陸幕の当事者意識の欠如

96式装輪装甲車(写真、陸自サイト)の後継機の開発が難航している

既にご案内のように、防衛装備庁で作っている8輪装甲車(改)が不具合で工場差し戻しとなっています。

陸自新型8輪装甲車開発の迷走の原因は装備庁と、陸幕。

そもそも論で言えば、原因は陸幕装備部に開発の当事者意識&能力が低く、予算をケチったことです。

まず、コマツにしろ、三菱重工にしろ、既存車輌の改良ですませろ、としたことです。

そしてマトモに外国製のリサーチをしていなかったこと、始めに国産開発ありきといういつもの隘路に入り込んでいます平成25年度 政策評価書(事前の事業評価)には以下のようにあります。

「代替手段との比較検討状況諸外国においては、既に実用化された装輪装甲車として、米国のストライカー等があ
るが、各種脅威からの防護力等の要求性能、コストに関して総合的な観点から比較検討した結果、本事業の優位性が認められた」

本当でしょうか。コマツの試作がピラーニャVとかAMVとか、VBCIあたりと比べて生存性が高いく、コストが安いのでしょうか。コマツの96式や軽装甲機動車にしても諸外国の同レベルの装甲車の3倍くらいです。

装備庁に取材した際この話もしたのですが、陸幕がやったことなので・・・と歯切れの悪い回答でした。

そしてマトモに運用要求を熟慮したのか疑問です。島嶼防衛につかうといいつつ、水上航行機能はないようです。
むろん、機動戦闘車も島嶼防衛で使うといいつつ無いわけだから構わないという理屈もあるのですが、本当にリサーチをしっかりした上での結論ではないでしょう。

だって陸幕は殆ど海外に見本市にも来ないし、メーカーや他国の軍隊を視察に行くわけでも無い。そのうえ参照にしているのがウィキペディアとか2ちゃんねるとかです。

そしてバリアントもAPCの他は指揮通信車と、戦闘工兵車だけで、またも救急車型は要求されておりません。

最大の問題は予算です。たった17億円(コマツは18億円で落札、MHIは約26億円で応札)で、開発をして、5両の試作車輌を製造しろというのはふざけています。ぼくは当初、この予算なら試作は1輌だとばかり思っていました。それでも開発費が少ない、と思っていたくらいです。

しかも競合に勝てなければ、開発費は丸損です。当然メーカーは負けた場合を考えて、投資をケチるでしょう。これでまともなものが作れるわけが無い。

諸外国では先ずペーパープランを出させて、その中から2~3社を選んで試作をさせることが少なくありません。

本来ならばコマツ、MHIにそれぞれ開発費を払って試作させる。あるいは一社を選び、1輌試作をつくらせ、海外の候補と一緒にトライアルをさせ、勝ったら量産試作を作らせるという手順にするべきでした。

装備庁では耐爆性能は問題なく、他の問題は解決し、未だに未解決なのは装甲の耐弾性能に問題があるとしています。
輸入を含めて調達に関して研究するのは、コマツが不具合を直す間暇になるので、研究をしようかという話でしたが、そのまま信じていい物か、と疑いたくなるのはぼくだけではないと思います。

率直に申し上げて、日本の装甲車両開発能力はたいして高くはありません。ただでさえ小さい市場を二社でシェアしているために、少ない開発機会が更に少なくなっている。陸幕は諸外国の動向を把握しているとは言えず、現実的な運用要求をだせる能力がありません。

これで、またも安普請で、能力の低い国産装甲車をまたもや諸外国の装輪装甲車の何倍もの値段で調達し、結果数が揃わず途中で打ち切りになる気がします。

ヘリもそうですが、陸自の調達をみていると暗澹たる気持ちになります。

■本日の市ヶ谷の噂■
陸自のベル412ベースのUH-Xは調達単価12億円の予定が、調達単価が20億円を超えそう。そうであれば調達中止の危機で関係者は大慌て、との噂。

●東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
陸自の攻撃ヘリ部隊は、すでに瓦解している 墜落事故を機に長年の課題に向き合うべきだ


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年2月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。