早期教育ブームはSONY創業者発?育脳知育の反省知

日本の早期教育ブームへの疑問…

子どもは無条件に可愛く,愛しいものです。ベイビーシェマ反応*で私たちは本能的に何かをしてあげたくなります。その中で,「脳がやわらかいうちに…」「3歳までに脳の◯割が…」と子どもを賢く育ててあげる知育や育脳,いわゆる早期教育の人気が続いています。近年では乳幼児にとどまらず、「教育は妊娠した瞬間から…」と胎児への胎教を勧めることも…。日本の早期教育フィーバーはとどまるところを知らないようです。
ただ、慶応大学医学部小児科教授からはこのような疑問の声も上がっています。
「早期教育は意味がない」慶応医学部教授が指摘、その理由とは(dot.asahi)

早期教育は本当に必要なのでしょうか?ここでは、日本の早期教育ブームを反省的に振り返ってみましょう。

*:つぶらな瞳,すべすべの肌,小さい鼻や口,など子どもの容姿に本能的に反応して,何でもやってあげたくなる心理。

早期教育ブームの原点は,ソニー創始者の一言から?

日本における早期教育ブームは1970年ごろから,ソニー創始者の一人・井深大氏の著書『幼稚園では遅すぎる』を火付け役として始まったと言われています。当時は米国でも精神科医Bowlbyを始めとして乳児期は愛情豊かに育てるムーブメントの真っ只中でした。極端に刺激のない環境では赤ちゃんラットの脳が育ちにくいことを示唆する実験も話題になり,欧米でも今の日本のような早期教育ブームがあったようです。

 

日本に「輸入」されなかった真実とは?

ただ,欧米では多くの科学者によって早期教育の批判的検証がすぐに行われました。その結果,「脳がやわらかいうちに…」「3歳までに…」といった早期教育ブームのキャッチコピーの多くが「神話」とみなされるようになりました。行き過ぎた早期教育は「反省知」という財産を得たのです。
一方で日本では批判的検証はほとんど「輸入」されませんでした。早期教育ブームは反省知を得ること無く続き,やがて日本独自の理由による次のムーブメントと融合することになります。
参考

 

「お受験ブーム」の背景

次の早期教育を加熱させるムーブメントとは名門の中高や大学にほぼ無試験で進学できる私立幼稚園や私立小中学校の「お受験ブーム」です。当時の名門と呼ばれる私立幼稚園でも,多くは両親の審査と子どもの知的パフォーマンスの検査で合否が決まります。そして,小中学校までの成績は環境の影響が比較的強く出ます。つまり,親の努力で子どもに「高学歴」を与えてあげられる可能性が高いのです。
高学歴が必ずしも人生のアドバンテージになるわけではありません。ただ,多くの親は子どもに自分と同等かそれ以上の学歴を願うというデータもあります。子ども可愛さのあまり親の努力で学歴を与えてあげられるなら,ついつい早期教育に力が入ってしまいますよね。

 

「神話」×「お受験」=日本の早期教育ブーム:一大マーケット化?

この親の願いが70年代からのムーブメントと融合して,日本の早期教育ムーブメントは単なるブームではなくなったようです。すでに一大マーケットと化した印象もあります。近年では認知神経科学(いわゆる脳科学)の知見も断片が切り取られて(必ずしも科学的に正しい使われ方ばかりではないようですが),早期教育の科学的根拠であるかのように使われていることも多いようです。

 

ブームからエビデンスベーストな早期教育に!

ブームとは多くの場合で「行き過ぎ」に帰結します。その過程で「反省知」が産まれ,より合理的で洗練された「常識」として社会に定着します。しかし,日本の早期教育に関してはブームがずっと続いているようです。ブームの主役が数年で入れ替わる中で,なかなか反省知を積み重ねるチャンスもないようです。
大事なことは早期教育の全てを信じることでも疑うことでもありません。本当に意味のある早期教育を見極めることです。見極める一つの手段が「エビデンスベースト(科学的根拠に基づくこと)」です。日本の教育や子育ては識者の経験則や「神話」で語られることが比較的多いようですが,科学的根拠に学ぶことで子どもに本当に意味のある早期教育を与えてあげたいですね。

エビデンスベーストな子育ての新常識,詳しくは次の記事でご紹介しましょう。

参考:『心理学者・脳科学者が子育ててしていること、していないこと』

杉山崇(心理学者・臨床心理士)

神奈川大学人間科学部教授

公益社団法人日本心理学会代議員・日本学生相談学会理事・日本メンタルケア学術学会理事

脳科学と融合したうつ病の次世代型サイコセラピーの研究やTV・雑誌などマスメディアでの心理学解説で知られる。