日銀の鈴木人司審議委員は2月8日の和歌山市の講演において次のように発言していた。
「金融機関は、大手および地域金融機関ともに収益の中心はやはり資金収益にあり、これが金利自体の低下および利ざやの縮小によって減少しているわけですが、現時点においては、金融機関は磐石な財務基盤を有し、流動性等についてもストレス耐性を有していますので、金融システムあるいは金融仲介機能に支障が出ていることはないと私どもは分析しています。金融緩和が非常に長期化する中では、そうした影響というのは累積的に溜まっていくということですから、先々それが問題になってくるという可能性はあるわけです。将来的には調整することは十分に有り得るだろうと考えていますが、ご案内の通りそうした意見はまだ一部に止まっているのではないかと思います。」
鈴木委員は三菱東京UFJ銀行出身であり、金融機関に対する日銀の金融緩和による影響については審議委員のなかでもかなり注意を払っていると思われる。今回の鈴木委員の講演と会見で注目されたもののひとつが、現在の金融政策の微調整の可能性に関するものであり、その答えのひとつが上記となる。結論として、将来的な調整するとの意見はまだ一部に止まっているようである。
今年1月の金融政策決定会合の主な意見では、「金利水準の調整を検討することが必要になる可能性もあるのではないか」、「ETFをはじめとする各種リスク資産の買入れについて、政策効果と考え得る副作用について、あらゆる角度から検討すべきである」との指摘があった。鈴木委員を含めて複数の委員が、金融政策の微調整の可能性を指摘していた。
これに対して黒田総裁は1月の記者会見で、展望レポートで予想物価上昇率の判断を「弱含み」から「横ばい」に引き上げられたことに関して、「予想物価上昇率が上がったから直ちに金利の調整が必要になるとは全く考えていません」と発言していた。これから伺えることは、足元物価の上昇や欧米の長期金利の上昇などにより、日本の長期金利に上昇圧力が掛かっても、0.11%で抑えつけると主張しているように思われる。現実に欧米の長期金利の上昇を受けて日本の長期金利が0.1%に接近したことで、2月2日に日銀は0.11%での指し値オペを実施した。
この動きをみても、ターゲットとしている長期金利の調整は、現状はありえない。そして黒田総裁が再任され黒田体制が続く限りは、よほどの事態が起きない限り、今の政策を継続させていかざるを得ない。異次元緩和を裏で支えていた雨宮理事の副総裁への昇格が、どのような変化をもたらすのかも読みづらいが、政府としても現在の金融政策の維持を念頭に置いた今回の総裁・副総裁人事ともなる。もうひとりの副総裁はさておいて。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。