これからの自治体と外郭団体:固定観念を捨てるべき時期

これからの自治体は従来の外郭団体に関する固定観念(”公務員OB敵視“、”外郭団体性悪説“、”縮減一辺倒“)を捨てたほうがいい。筆者の問題意識を紹介したい。

「官から民へ」の限界

国でも自治体でも外郭団体はとかく白眼視されてきた。確かに過去はひどかった。ろくに仕事をしない天下りOBの理事たち、役所の委託契約の独占と民業圧迫、過剰な人員配置、昇進の道を閉ざされやる気のないプロパー職員たち・・など。こうした実態は、財政危機の中で多くの団体が改革を迫られ、かなり改善された。しかし、企業に比べるとまだまだ甘いところがあり、今後も監視する必要がある。

一方、もっと大きな視点から見ると外郭団体を取り巻く状況は大きく変わっている。

第1にIT化を背景とする世の中全体のアウトソーシングの進展である。役所のみならず、民間企業でも本来業務以外の仕事は外に出す、つまり「餅は餅屋」の専門企業に出すのが当たり前、つまり自前主義は捨てて当然という時代になった。人材派遣や請負契約、施設管理など専門企業は、数も規模も拡大し、専門企業を子会社として育成する大企業も増えた。

第2には深刻な人手不足、特に専門人材の払底である。ITエンジニアにしろ看護師にしろ専門家人材は全国的に不足している。都庁でも最近、金融やITなどのプロ人材を中途採用などで増強しているが追いつかない。しかも役所の仕事はますます高度化、専門化していく一方で役所の場合、頻繁に人事異動がある。庁内の専門人材は常に払底する構造にある。それを補うとなるとどうしても庁外に供給源を求めざるを得ない。

だが役所の業務の中には民間企業に外注しにくい特殊なあるいは非定型な業務がある。しかも原資は税金だから高額での発注もできない。となると外郭団体が必要になる。外郭団体では人事異動の多い公務員にはなりたくないが専門を活かして世のためになる仕事をしたいという人材が集められる。役所のブランドに裏打ちされ、給与は民間ほど高くはないが社会的地位は高くて安定した雇用環境を好むという人材が集められる。

かつての外郭団体は役所のOBの受け皿だった。しかし、今は庁外の専門職人材を獲得する大事な受け皿となりつつある。

第3には役所のOBについても再雇用や定年延長の動きがある。企業では60歳定年を超え65歳、さらには70歳まで再雇用する動きが顕著だ。定年後も仕事を続ける高齢者が増えている。そのほうが健康にもよく、世の中全体の人手不足に貢献できるという事情もある。企業も自治体も再雇用の場の提供が求められている。かくして本庁でも外郭団体でも一定数の役所OBがいるのは当然、もはや天下りとは言えないという時代になってきた。公務員だって労働者だ。元公務員だから専門ノウハウを生かせる職場は公的分野になるのは仕方がない。本人の経歴や経験が生かせる仕事なら外郭団体への再就職は認め、一概に天下りと批判はしないという流れができていくだろう。

外郭団体経営の3原則

しかし自治体の外郭団体に対する市民や議員の目は極めて厳しい。過去には本庁との癒着や民業圧迫、そして不当な天下りが横行した歴史があり、また企業でも子会社経営やOBの再雇用では数々の失敗の歴史がある。

そこでこれを踏まえ、これからは新たな「外郭団体経営」のルールと方針が必要になるであろう。具体的には事業の性格や本庁の置かれた事情、人材確保の状況次第で決まるのだが、ここでは成功のための3つの秘訣を紹介したい。

成功原則その①は、「バランス調達の原則」である。施設の指定管理にしろ、イベントの委託にしろ、外郭団体を活用する際にはそこばかりに発注が偏らないようにする。同種の仕事は外郭団体、民間企業(競争入札で募集)、本庁(直営)の3つに分けて発注する(これはもちろん駐車場の管理やビルのメンテナンスなど「民間でできることは民間に任せる」という原則を徹底したうえでのことだが)。

例えばある自治体に福祉施設が10あるとする。このうち例えば4つは公募競争で選んだ民間企業に指定管理をゆだね、3つは民間企業と外郭団体のコンソーシアムに任せ、2つは非公募で外郭団体に任せ、一つは直営でやる。外郭団体が担う施設や直営施設では研究や研修も担当させる。全部を民間にゆだねても大丈夫な分野ならもちろん委ねてよい。

だが地元で能力の高い業者、あるいは大規模施設を運営できる事業者が限られるなら外郭団体を基軸に考えたほうが安定する。あるいは簡単なもの、ノウハウが確立したものは民間に効率追求をゆだね、そうでないものは赤字覚悟で外郭団体に委ねる。また一部を直営で残し、公務員の外注管理能力を維持する、といった具合である。あくまでケースバイケースだがすべてを民間が、あるいは外郭団体が担う姿は中庸を書いた姿だと考え、あるべき姿を考え直す。

成功原則その②は、外郭団体の理事長、社長、役員等の役職者の公募制である。公募にかけることで民間企業の経験者など多彩な経営人材が発掘でき、自律改革が始まる。人物本位だから公募の結果、役所のOBが選ばれてもかまわない。その場合でも公募要件には改革を進めることなど条件を掲げておく。同じOBでも生半可な気持ちでは天下りできなくなる。あるいは何かの失敗をしたときに「自分はたまたま指定席ポストについていただけ」といった無責任な言い訳ができなくなる。

成功原則その③は、徹底した情報公開である。これは例えば、外郭団体の施設を特定日に市民に開放し、見学会をやる。多くの外郭団体は地味で分かりにくい。ふだんから情報公開し、存在意義と役割をアピールする。そうした活動の積み重ねから市民の理解と信頼を構築していくべきだ。

時代の流れに合わせ、外郭団体の果たすべき役割が大きく変わりつつある。従来のような全分野一律の管理はもうそぐわない。分野別に、また自治体別のいわばグループ経営の戦略を立てるべき時期にきている。


編集部より:このブログは都政改革本部顧問、上山信一氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)のブログ、2018年2月17日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた上山氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、上山氏のブログ「見えないものを見よう」をご覧ください。