米国南部フロリダ州のパークランドの高校で14日午後、銃乱射事件が起き、17人が死亡、少なくとも15人が負傷した。犯人は犯行があった高校の元生徒ニコラス・クルーズ(19)で犯行後、警察官に拘束された。容疑者は犯行を認めているという。地元警察当局は犯行の動機などを慎重に捜査中だ。
正直いって「またか」という思いが先行した。米紙ワシントンポストによると、学校内の銃乱射事件(スクールシュ―ティング)は今年に入り、18件(未遂と事故を含む)で21人が犠牲となっている。
「もう十分だ」(enough is enough)といった手書きを掲げて抗議する女性の写真が配信されていた。その通りかもしれない。独週刊誌シュピーゲル(電子版)は16日、“米国の道徳的アパシー(無気力無関心)”という見出しの論評を掲載していた。多発する銃乱射事件の背後には米社会の困惑と道徳的アパシーがあると指摘している。シュピーゲル誌の記事を参考にパークランドの銃乱射事件を追ってみた。
ニコラス・クルーズ容疑者は犯行のあった高校の元生徒だったが、退学処分を受けた。犯行に使用した武器は自動小銃「AR-15」で昨年2月、合法的に購入している。元高校の生徒たちの証言によると、容疑者は銃マニアで、「学校内で銃乱射事件が起きるならば、彼だろう」と冗談で囁かれていたという。フロリダ州では18歳になれば、AR-15を購入できる。
トランプ米大統領は15日午後(事件発生1日後)、コメントを発表した。銃乱射事件が発生すると、直ぐに国民に向かってホワイトハウスからコメントを出したオバマ前大統領とはちょっと異なっている。
トランプ大統領は6分間余りの演説の中で犠牲者への追悼を表明したが、「銃」という言葉は大統領の口から1度も出なかった。大統領のツイッターでは、「容疑者は精神疾患者だった」と断定している。トランプ大統領夫妻は16日、現地に飛び、負傷者が収容されている病院を訪問している。
米国では銃乱射事件が起きる度に、銃の規制強化論が出て、それに反対する者との間で論争が繰り広げられるが、時間の経過と共にいつの間にか消えていく。
ニューヨーク・タイムズによると、米国の人口は世界全体の4・4%だが、世界の武器の42%を所持しているという。米国では昨年、銃による犠牲者数は1万5590人、負傷者数3万1181人だった。
銃の規制を訴える非政府機関(NGO)「Everytown for Gun Safety」によると、2013年以後、スクールシュ―ティングは290件に及ぶという。
NGO関係者から銃の規制強化を求める声が聞かれるが、トランプ大統領を含む共和党関係者からはまったくといっていいほど聞かれない。ポール・ライアン下院議長は、「事実を慎重に集めるべきだ」と銃規制論が飛びだすことにブレーキかけている。フロリダ州出身のマルコ・ルビオ上院議員は、「早急な結論を下すべきではない」と警告を発するほどだ。民主党関係者からは、より厳格な銃規制とか、銃購入時の身辺調査などを主張する声が聞かれるが、その声もいつの間にか消えていく。
例えば、下院議会は米東部コネチカット州のサンディフック小学校で2012年12月14日、銃乱射事件が発生し、児童20人を含む26人が犠牲となった事件が発生したが、米下院議会は銃規制の強化を実施できなかった。
NGO「責任ある政治センター」( Center for Responsive Politics)によると、 全米ライフル協会(NRA)は2016年、5500万ドルを共和党の大統領選に献金している。トランプ大統領はそこから3120万ドルの献金を受けた。NRAのロビー活動が銃規制強化を妨げていることは間違いないだろう。
NRAの標語をご存じだろうか。Guns don’t kill people, people kill people(銃は人を殺さない。人が人を殺すのだ)。これは正論だ。銃に責任があるのではなく、銃で人を殺す人がいるからだ。ただし、自制できない人間に銃を提供するのはやはり回避すべきだろう。
欧米社会で今最も注目されている心理学者、カナダのトロント大学ジョルダン・ペーターソン教授は、「人生は悲劇だ。誰でもモンスターになれるからだ」と述べている。モンスターに銃を与えれば、どのような結果が生じるかは容易に想像できることだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。