がんゲノム医療中核拠点:選択?か忖度か?

シカゴに戻ってきた。日本に1週間、シカゴで1週間、続いて日本に1週間。65歳の体には、非常に厳しいものがある。おまけに、外は、またまた、雪が舞っており、なんとも鬱陶しい気持ちだ。しかし、私の残りの人生を賭けた「がんプレシジョン医療(CPM)ネットワーク」を確立する準備のために体に鞭打って動き続けなければならない。 

OTS社と韓国テラジェン社の合弁遺伝子解析企業、大きな病院グループ、免疫療法クリニック、そして、全国にネットワークを持つ臨床検査企業、人工知能企業、がん検診センター、細胞培養受託企業、医療保険会社などを含めた大きなネットワークを構築し、日本のがん医療を根底から変えていきたいのだ。すでに、前3社の提携は決定し、臨床検査企業、人工知能企業、細胞培養受託企業、がん検診センターとは、交渉中。もちろん、この枠の中に、がん患者さんや家族の団体が加わっていただけることが不可欠だ。できれば、今年の夏までには、ネットワーク発足式をしたいものだ。 

そして、少し落ち込んだのが、日本滞在中に発表されたがんゲノム医療中核拠点11病院だ。私が、プレシジョン医療研究センターの顧問をしているがん研究所有明病院は、予想通りに?、私の期待を裏切って11病院には入らなかった。日本国内で最大の手術件数を誇っている病院であり、私が生化学部長になった1989年からゲノム研究に取り組んでいる日本のゲノム研究発祥の地だ。どこから見れば、拠点にふさわしくないのか、その理由もはっきりと公表して欲しいものだ。私は遺伝性がん研究を牽引してきた専門家だ。臨床遺伝学専門医として指導もしていた。米国ならば、何が不足していて認定されなかったのか、絶対的に反論が許される。どう考えても、忖度で決められる日本の現状を象徴している結果であると思う。 

しかし、個人的には、ゲノム医療などは、国が規制しながら進めていくものではないと思う。シークエンス解析技術など急速に進展しており、米国に比べて5〜10年遅れて歩いているような現状に対する危機意識が完全に欠落している。リキッドバイオプシーと新規免疫療法の開発が、今後のがん医療の牽引役となることは、繰り返して述べてきたし、現在、このブログで「プレシジョン医療」に関するシリーズを紹介している。国立がん研究センターを含む官のゆったりとした時間の流れでは、絶対に世界との競争に勝つことなどできるはずもない。 

国は常にトップダウンで変革を進めようとしてきた。国立がん研究センターに予算を落とし、厚生科学研究費で配下の公立がんセンターを牛耳り、忖度というオブラートで包まれた方法で、ギルドのように研究費利権を維持しようとしている。公募という見せかけの言葉に、競争と公平な評価という科学の場で絶対に必要な条件を飲み込んで、日本の研究費制度は歪み続けている。

このままでいいのか日本のがん研究・がん医療は?


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年2月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。