保全処分は、ある日突然やってくる!

銀行取引をしたり、アパートを借りたりする場合、銀行や不動産業者が提示した契約書の内容を確認することなく署名(記名)捺印している人が多いと思います。

とりわけ銀行が相手のような場合、「この条項を削ってくれませんか」など言うと信用を疑われる怖れあるので、言われるがままということが多いのではないでしょうか?

ほとんどの契約書には、「以下の場合、甲は本契約を解除することができる」という条項として「仮差し押さえ、仮処分」などが挙げられています。銀行取引だと、預金を仮差押えされると、融資した金額全額の返済を迫られることもあります。

それほど大きな影響を与えいる仮差押えや仮処分ですが、実際上は借用書などを添付して保証金を積めば、裁判所が突然一方的に認るケースがほとんどなのです。

なぜから、借りたお金を返してもらえないような場合、相手が銀行預金を引き出す前に押さえておかないと、勝訴判決をもらっても強制執行をして取り戻すことが困難になってしまうからです。

仮に差し押さえたり、仮に処分(移転登記禁止など)をしておかないと、勝訴判決をもらっても空振りに終わるのを事前に防ぐのが、保全処分(仮差し押さえや仮処分)の存在意義なのです。

ですから、私は、訴訟を提起するときに保全処分の可否を考え、可能な場合は必ず行うようにしていました。

1月(ひとつき)に1,2件は保全処分の申立を行ったものです。

銀行預金を仮差押えされたと言って泣きついてきた相談者がよくいましたが、支払うべきお金を払っていないのであれば、早急に和解することを強く勧めていました。

取引銀行も指をくわえてみている訳にもいかないので、銀行からもプレッシャーがかかってきます。債権者と早々に和解して仮差押えを解いてもらわないと会社の存亡にも関わります。賃貸借契約書にも同じような条項がありますが、これで揉めたという経験はありません。

多額の保証金を家主に入れているような場合は別として、多くのトラブルは家主と借主の間に起こるので、敷金を受け取っている家主が断然有利だからです。

中堅中小企業の場合だと、給与の差し押さえがなされると辞職する人が多いようです。給与は最大でも4分の1までしか差し押さえられないので生活に大きな支障は出ませんが、経営者が圧力をかけるのか、仮差し押さえを受けた従業員が恥じるのか、なぜかトラブルになる前に辞めてしまうという例がほとんどでした。

いずれにしても、この保全処分(仮差し押さえ、仮処分)は曲者です。

話し合いの余地なく、ある日突然やってきますから。養育費等、本来支払うべきお金を滞納している人は督促される前に誠意をもって支払いましょうね。

説得の戦略 交渉心理学入門 (ディスカヴァー携書)
荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年2月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。