児童虐待における警察の役割

山田 肇

2月22日に『児童虐待事案への刑事的介入における多機関連携』と題するシンポジウムが京都産業大学と警察大学校の主催で実施された。300名以上の聴衆を集め熱のこもった議論が行われたが、京都新聞以外に記事が見当たらないので、その内容を紹介する。

死亡など重大な児童虐待案件について、警察は国家刑罰権の行使につながる司法警察型捜査を行う。一方、多くの児童虐待案件は個人保護型捜査の対象となる。個人保護型捜査は被害が加えられる恐れを防止する警察権限行使の一態様だが、児童虐待では虐待の再発を防止するのが目的となる。

司法警察型捜査では加害の状況を明らかにすることが焦点になるが、個人保護型捜査では被害児の不利益をできる限り少なくする必要がある。「子ども(被害児)のため」の捜査活動なので児童相談所など関係する他機関との連携が必要不可欠となるため、司法警察型捜査のように捜査情報を秘匿するのは必ずしも適切ではない。

たとえば、再発防止のために親子を分離させるかどうかという児童相談所の判断と、身柄を拘束して事件化するかという警察の判断、さらには検察による起訴・不起訴の判断には連動性が求められる。このことが多くの登壇者の発表とパネル討論で浮き彫りにされた。パネル討論には警察庁生活安全局少年課長も登壇し方向性を確認したので、今後、多機関連携は推進されていくだろう。

被害児にできる限り精神的な負担をかけずに、できる限り正確な情報を聴取する、多機関が連携して実施する協同面接の重要性についても、登壇者から繰り返し強調された。すでに協同面接には実践例があるが、今後、この利用が拡大していくと思われる。

京都産業大学などによる研究開発協働面接に関わる立命館大学等の研究開発も、JST社会技術研究開発センター(RISTEX)『安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築』研究開発領域の一環として実施された。RISTEXは研究開発成果を社会に導入していく「社会実装」を追求する組織であるが、今回シンポジウムで発表された成果には社会実装の可能性がある。

3月8日には『妊娠期からDVを予防するには』、3月12日に『社会的弱者を支える個人情報の活用』など多くのシンポジウムが開催される。この研究開発領域の責任者として、皆様のご参加を心よりお願いする。

山田 肇
ドラえもん社会ワールド 情報に強くなろう』監修