ホンダと既存の日本の航空機メーカーとの違い

清谷 信一

ホンダジェット公式サイトより:編集部

ホンダジェット、セスナ主力機抜き首位 17年納入機数(日本経済新聞)

ホンダのビジネスジェット機「ホンダジェット」の2017年の世界での納入機数が前年比20機増の43機となり、米セスナの主力機「サイテーションM2」を抜いて初めて首位となった。ビジネスジェット市場は世界的に成長が鈍化しているが、ホンダジェットが含まれる「超小型機部門」は前年と比べ需要が5割増。ホンダにとっては苦戦が続くF1に代わるブランド戦略の柱となる。将来は自動車などに続く収益源に育てる考えだ。

なぜホンダだったのか ジェット初の年間首位(日本経済新聞)

いわゆる日の丸ジェットを巡っては、08年に事業化を決めた三菱重工が5度の遅延で納入時期が当初より7年遅れ、危機に立たされている。それでも事業化決定からはまだ10年。商用化まで10年というのは航空機産業ではむしろ一般的だ。ホンダは事業化決定から9年で商用化にこぎ着けたが、それまでに20年に及ぶ助走期間があった。

現状だけを比べれば明暗が分かれているものの、ホンダも日本企業で初となる米当局からの認証取得には手を焼き、初号機納入は5年遅れた。そもそも航空機の開発遅れは日常茶飯事。米ボーイングも中型機「787」で7度も延期している。異業種が参入への高い壁を乗り越えるには我慢が欠かせない。ホンダジェット成功の背景には、技術者の「遊び」を重視した、創業世代から続くホンダ流の「我慢の新事業育成法」がある。

もっとも順調にみえるホンダジェットも収益貢献は道半ば。17年4~12月期の営業損益は300億円強の赤字だった。納入機数が増えてもサービスなどで稼ぐには時間がかかる。ビジネスとして軌道に乗せるまでの我慢はもう少し続きそうだ。

ホンダジェットがビジネスジェット市場で好調です。無論これまで掛かった投資の回収には時間がかかるでしょうが、防衛省需要に寄生する、既存の航空機メーカーとは明暗を分けた形になっています。

以下はぼくが2007年に文藝春秋社の「諸君!」に書いた記事の抜粋です。

航空メーカー各社のぶち上げている民間機市場への参入プランは、現実性があまり高くない。むしろ現実離れしているといってよい。これが我が国の航空産業界の認識なのである。

これら既存の航空機メーカーよりもむしろホンダやトヨタなど自動車メーカーの参入プランの方が現実的かつ堅実で、民間機市場で成功する可能性が高い。両社は長年にわたる入念な準備を経て、ビジネスジェットを開発、北米を中心に粛々と事業化に向けて活動している。実は企業のVIPや大金持ちをターゲットにしたビジネスジェットは、空飛ぶリムジンといえる存在で、経済効率やコストパフォーマンスよりもオーナーの趣味で購入が決定される傾向がある。しかも旅客機のように経済性を最優先する必要もない。

旅客機よりむしろ高級車にマーケット特性が似ている。しかも両社はクルマで培ったブランド力が大きな武器として活かせる。トヨタは05年に富士重工を買収したが、これは将来の航空機ビジネス参入に備えて航空機部門の開発のノウハウと、生産力を入手したいという思惑が働いたことは間違いあるまい。

ホンダと既存の航空機メーカーの違いは、ホンダが民間企業のセンスで航空機のビジネスを進めてきたのに対してその他の防衛省依存のメーカーは、事実上国営企業的なセンスで商売しているところです。

ですから、市場と商売が全く分かっていない。それでも三菱重工は民間旅客機ビジネスに打って出たところは評価できるし、三菱航空機も当初とは意識も大きく変わっています。惜しむらくはそれが後5年早く始まっていたらということでしょう。そうであれば随分と開発期間は短縮されたのではないでしょうか。

それでもスバルや川重と違って、果敢にリスクを負ってあらたな商売を始めたところは、さすが三菱です。防衛産業として残るのはこういう企業でしょう。

官需頼みの寄生虫のような企業は今後の厳しい環境を切り抜けることはできず、防衛産業からも撤退することになるのではないでしょうか。現にスバルはUH-Xの単価高騰がささやかれております。UH-Xがキャンセルにでもなれば殆ど仕事はありません。FFRSも追加調達はありません。AH-XでAH-64Eが採用になってもさすがに輸入で、スバルにはカネは落ちないでしょう。

川重にしても未だにOH-1の改良型をAH-Xに提案しておりますが、これも無理筋。海のUH-XがAW101に決まってもライセンス生産という名の組み立て生産ではなく、輸入になる可能性が大です。
CH-47の細々とした調達も輸入に切り替わるのでは無いでしょうか。C-2、P-1にしても調達単価、維持費が高騰して調達機数を大幅に削減される可能性があります。

また、川重はC-2の民間転用なんぞやる気も無いのに、やると言い続け、海外の見本市でアピールしてきました。ですが、こういう「おためごかし」は潜在顧客を失うだけです。

新明和もUS-2の調達が終われば、次の飛行艇のプロジェクトなんぞないでしょう。自社でもっと小型の飛行艇を開発して世界に売り込む体力もノウハウもありません。

後はボーイング社など外国企業の下請け商売だけですが、これも中進国の追い上げが厳しくなってきています。将来は暗いと言わざるを得ません。

自らリスクを取り、未来を切り開く気が無い企業は生き残ることができません。

少し前にビーチクラフトが売りにだされておりましたが、ああいう企業を買収すれば一気に世界の市場へのアクセスは開けたことでしょうが、そういうことすら日本企業は考えません。

米国企業は別な意味でのリスクを抱えております。上場企業は四半期ごとの利益と株価を上げろと投資家にせっつかれます。ですからホンダジェットのような長期の研究開発もできないし、従業員の教育や設備投資も制限されています。現在のような短期利益重視の傾向が続けば、米国製造業の未来はくらいと言わざるを得ません。

本来そういう意味では長期投資が可能な日本企業には航空機参入の機会はありました。特にヘリなんぞは軍民の垣根が少なく、また小規模顧客、個人客が多く、旅客機ほどコストのシビアではなく、投資金額もかからないので、格好の分野だったのですが、それすら入り込めていません。陸のUH-Xでベル社案が選ばれた段階で、多分に日本のヘリ産業の将来は決まったと思います。

恐らく既存の日本の航空機メーカーは現状維持だけ傾注するでしょうが、それはみずから将来を捨てることを意味しています。

■本日の市ヶ谷の噂■
1/13(土)に靖国神社の会館にて陸自需品の賀詞交歓会が行われたが、わざわざ物議を醸す醸すようなところでやりやがって、と市ヶ谷内部でも顰蹙との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年2月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。