いまさらではあるが、日本の金利は過去の歴史に例のないような低い状態にあることはご承知の通り。その原因は日銀による金融政策にある。むろん、物価が前年比マイナスといった状況下であれば、物価による金利への影響も考えられる。しかし、その物価は日銀が目標とする2%には届かないものの、前年比0.9%と1%近い水準にある。生鮮食料品の値上がりで1月の総合指数は前年比プラス1.4%に上昇している。
それでも日銀の大量の国債買入とイールドカーブコントロールによって、長期金利は0.1%以下に抑えられている。これがいったい何の役に立っているのであろうか。
中央銀行が大量に国債等の資産を買い入れれば、物価は上がるとしていた日銀の壮大な実験はうまくいってはいない。むしろ物価は上がらずとも景気そのものは拡大している。この景気拡大はアベノミクスというより、世界的な危機後退による景気拡大の恩恵を受けている。景気の緩やかな回復と物価が低位安定していることは、我々の生活にとってはそれほど悪い状況ではない。賃金の上昇ペースは鈍くとも、雇用はタイトとなっている。
賃金といえば大手銀行のベースアップで労働組合によるベースアップ要求が見送りとなるようだが、金融機関の厳しい経営環境の原因は日銀による低金利政策にある。
経団連の榊原会長は26日の記者会見で、「各業界の状況はさまざまであり、判断を尊重するが、これは特殊な状況の中での銀行の組合側の判断だと思う。全体として、日本経済は非常に好調で、多くの企業が史上最高益の更新を含めた増収増益となっているので、過去の実績を上回る賃上げの実現を期待している」と述べていた(NHK)。
この日本経済は非常に好調な理由として、日銀による異次元緩和を中心としたアベノミクスを意識する人も多いかもしれないが、本当にそうであるのか。日銀が大量に国債を買い、イールドカーブを無理矢理抑え込めば、物価が上がらなくても、景気は回復するのか。その波及経路はどうなっているのか。
日本企業は現在、債務まみれの状態にあるわけでなく、むしろ潤沢な資金を保有している企業も多い。我々国民もまた潤沢な資金を有していることは日銀の資金循環統計等からもあきらかである。つまり企業も個人も本来であれば、物価や景気動向に即した金利を得られてしかるべきなところ、それがゼロ近くになっている。つまり本来もらえるものがもらえていないことを我々はもっと認識すべきである。
それで楽になっているのが政府である。膨大な債務リスクがこれによって顕在化せず、財政は拡張するばかりとなっている。本来であれば、債務危機への警報器である国債の価格発見機能も日銀によって機能停止とされている。このような状況で本当な良いのであろうか、我々はいま一度考えてみる必要があるのではなかろうか。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年2月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。