白菜千円が警告する物価上昇を日銀軽視

中村 仁

生活実感と違う日銀の指標

寒波で値上がりした1個1000円の白菜の写真を、知人がネットに投稿していました。「いくら何でも1000円は高すぎる」という反応がありました。気になって私もスーパーを覗いてみますと、税込みにすると、その程度の白菜を見かけました。

皆さん、生鮮食品の値上がりが気になっているのでしょう。続いて半分カット、4分の1カットの白菜を近所のスーパーで撮影し、投稿する人が続きました。お年寄り向けはともかく、不作によるカット野菜の登場は滅多ありません。これからは頻繁でしょう。

2分の1カットでも400ー500円、4分の1カットでは250円程度です。それでまだ高いというので、8分の1カットで120円程度の白菜が店頭に並べられるほどです。8分の1カットになると、だんだん、ぺらぺらの紙に近づいてきますから、これが限界でしょう。

昨年秋からの台風、天候不順、日照不足で値上がりが始まり、ビニールハウスもダメージを受け、1月からは極度の寒波の影響が始まりました。キャベツ1個400円、レタス250円、ブロッコリー250円、などなど。平年比で200から250%アップです。

生鮮食品は12%アップ

1月の消費者物価統計によりますと、生鮮食品は前年比12・5%アップ、生鮮食品含む総合指数は1・4%アップ、生鮮食品を除く指数(コア指数)0・9%アップ、さらにエネルギー価格も除く指数(コアコア指数)は0・4%アップです。

日銀がデフレ脱却の目標として掲げた「2年で2%上昇」の2%は、生鮮食品を除くコア指数ですから、目標値の半分程度です。ですから日銀は「デフレ脱却は道半ば。異次元緩和、ゼロ金利政策はまだ続ける」、強調しているのです。

経済活動がデフレを脱して上向きになり、消費財などの需要が高まり、その結果、物価の上昇が始まったかをみるには、生鮮食品を除いたコア指数でチエックするのがいいのでしょう。異常気象という経済外的要因で動いてしまう物価指数でなく、どの国も経済的要因で動くコア指数を政策目標に使っています。

政府、日銀の物価政策ではそうであっても、国民の生活実感は生鮮食品を含む総合物価指数で左右されます。「1000円の白菜」の驚きは政府、日銀物価指標が生活感覚と乖離していることへの警告といえないでしょうか。

生鮮食品はもちろん、電気、ガス、配送料金、保存用食品、加工食品などを含む生活必需品の物価動向を別に集計してみるべきです。国民の消費生活は、日銀統計ではなく、生活必需品の物価動向に左右されるからです。

異次元金融緩和(13年4月)が始まった当時と、日銀の狙いは相当、変わってしまっているようです。「当初は早く消費者物価が2%まで上がってほしい」でした。それが今や本心では「1%程度で低迷している方が都合がよい」に変わっているとみます。

異次元緩和の狙いは変わった

「ゼロ金利下で国債を大量に買い続けると、金利負担も少なく、安倍政権や財務省が助かる」、「異次元の金融緩和が株高、資産高を作り出しており、この構造を変えるわけにはいかない」、「為替相場が円高に振れないようするためにも、超低金利は都合がよい」。などなどですか。

物価が上昇する兆しが観測され始めているのですから、いつ異次元緩和から転換するのかという出口論の議論を始めておくべきです。米国が年3回ペースで金利を引き上げるシナリオを示しているのは、「このままでは、いつかバブルが破裂する」の危惧からです。

日本は黒田総裁の異次元緩和によって、日銀の財務体質が悪化し、安倍政権の財政出動よって、財政危機が深刻化しています。その時にバブルが世界的に破裂したら、日本は金融政策も財政政策も打てないだろうといわれます。困りましたね。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年3月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。