欧州はここ数日寒波に襲われ、交通網が絶たれ、外地から隔離された地域さえ出ているが、ドイツの政界はようやく長いトンネルを抜けた。昨年9月24日の独連邦議会選後、新政権が誕生できずに5カ月以上(161日)が経過したが、メルケル独首相が率いる与党「キリスト教民主、社会同盟」(CDU/CSU)と野党第一党「社会民主党」(SPD)との大連立政権(第4次メルケル政権)が発足に向けて大きく前進した。
SPDは4日午前(現地時間)、大連立政権の合意内容の是非を問う党員投票(46万3722人)の結果を公表した。賛成票は23万9604票(66・02%)、反対票は12万3329票(33・98%)、投票率は約78・39%だった。賛成票が全体の約3分の2を占める予想外の結果だった。
これを受け、今月14日には連邦議会でメルケル首相が首相に再選される道が開かれた。ちなみに、CDU/CSUとSPDの連邦議会(定数709議席)の議席数は246議席と153議席で合わせて399議席だ。
CDU/CSUはSPDに先駆け、大連立交渉の合意内容を党大会で承認済みだが、SPDは党内の大連立に反対する声を考慮して、全党員に合意内容の是非を問うことにした。SPD内では連邦議会選で得票率約20・5%と党歴代最低を記録したことを受け、「野党に下野して再出発すべきだ」、「メルケル首相の第4次政権発足を助けるだけだ」という批判の声が多かった。特に、社民党青年部(JUSO)では連邦全土で大連立反対キャンペーンを展開させたほどだ。
SPD党員が大連立を支持した理由として、①大連立政権が成立せず、メルケル政権が少数政権を発足させたとしても、再選挙は回避できない。世論調査によると、SPDは再選挙では昨年9月の得票率を下回り、20%を割る可能性があると予想されていること、②大連立交渉でSPDが財務省、外務省、社会労働省など主要閣僚ポストを獲得したことで、党の政策が実施できる環境が生まれたこと―の2点が考えられる。なお、SPDに与えられた財務相、外相、社会労働相などの閣僚ポストの人事は今週中に決定される予定だ。
一方、CSUはゼーホーファー党首が内務相を得て、難民対策で強い指導力が発揮できることで満足。CDU内では財務省、外務省など主要ポストをSPDに渡したことで、不満の声があったが、メルケル首相は党大会前に党人事を実施し、党内の反メルケル派や不満の声を巧みに吸収する党内危機管理で成果を上げたばかりだ(「メルケル氏の『党(CDU)への処方箋』2018年3月1日参考)。
連邦選挙後、メルケル首相は「自由民主党」(FDP)と「同盟90/緑の党」とのジャマイカ連立政権の発足を目指したが、FDP離脱の結果、挫折。SPDが選挙直後、野党に下野すると早々と宣言したため、メルケル首相は連立パートナーを失い、再選挙は回避できない状況下に陥ったが、SPD出身のシュタインマイヤー大統領がSPDを説得。SPD内に強い反発の声があったが、CDU/CSUとSPDの大連立政権の再現となった経緯がある。
ドイツで一応、安定政権の大連立政権が発足する見通しとなったが、大連立政権への国民の目が厳しい。それだけに、第4次メルケル政権がどのような政策を実行するか、注視されるところだ。
一方、欧州連合(EU)はドイツの大連立政権の発足を一様に歓迎している。欧州経済は順調に成長してきたが、EU内は決して一枚岩ではない。ロシアや中国は欧州の統合を阻害する動きを示しているうえ、難民問題はまだ解決されていない。多くの難問を抱えている時だけに、強い指導力のあるメルケル政権の発足は朗報だろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年3月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。