ベネズエラ危機が如何に深刻であるかということを示すのに二つの出来事の比較がされている。1929年に始まった米国の経済恐慌で米国民一人当たりの所得が28%減少したのに対し、現在のベネズエラでは同所得は50%以上の減少をしているという。
ベネズエラの危機が始まってから220万人がベネズエラから外国に移住しているという。それを如実に観察できるのは新年に入ってから、小中学校で登校する生徒が減少していることだ。ミランダ州では新年に入って最初の授業で生徒が17%減ったそうだ。同州では凡そ1万人の小中学校の生徒が登校しなくなっているという。理由は子どもを連れて家族は外国へ移民したからである。
その一方で、ベネズエラの惨状から最も被害を被っているのは隣国のコロンビアである。これまでコロンビアには140万人のベネズエラ人が入国している。その内の50万人がコロンビアに留まり、それ以外の入国者はコロンビアは通過するだけで、ペルー、エクアドル、アルゼンチン、チリが最終の目的地になっているという。
ベネズエラからコロンビアへは日毎35,000人が入国しているという。その中で一番良く利用されるのはコロンビアのククタ市とベネズエラのサン・アントニオ市を繋ぐ全長315メートルのシモン・ボリバル橋がある所である。しかし、昨年は2450人が入国を拒否されたそうだ。
ククタ市からアルゼンチンにバスで移動するには一人450ドルで、12日間の行程だという。飛行機だと800ドル。家族4人がバスで移動すれば飛行機に比べ1400ドルの節約になる。多くの人が手持ちギリギリのお金を持参しての移住である。バスでの移動は経済的にもってこいの手段である。同じくククタ市からエクアドルの首都キトへは150ドル、ペルーのリマは250ドル、チリのサンティアゴは395ドルといった具合だ。
ひとり持参できるトランクは20キロまで、手持ちの荷物は5キロまで。ペットも連れて行きたい場合は一匹当たり60ドル。ベネズエラでは食料難で動物園の動物がいなくなっているという。食用にするためである。だから、ペットも放置すると食用にされる可能性は高い。
一方、一旦コロンビアに入国してそこに留まっているベネズエラ移民の中で374,000人は不法移民だと推測されている。ククタ市のセビーリャ地区にある公園は現在「カラカス・ホテル」と呼ばれている。ベネズエラからの移民で溢れているからである。その数は凡そ900人。
その公園と歩道には置かれているマットレスが目立ち、木の枝から吊るしたシーツはカーテン代わり使用され、衣類も干すのに広げられ、公衆の場で用を足し、水を無料で使うのに水道の配水管は破壊されている。そこから水を盗むのである。
この900人のベネズエラからの移民の滞留に対し、この地区の住民の間で先日も抗議デモが行われた。理由は、彼らが滞留していることで治安の安全が脅かされるようになっていることや、安い賃金で働く彼らの存在を前にその地区の住民の職場が無くなっているからである。この事実を前に、これまで600人近くの経営者が不法に彼らを雇用していたとして罰金を科せられたそうだ。
更に、病院も彼らが利用するようになって混雑するようになっている。また、彼らに医療を施すことでコロンビア政府の出費も増加している。
同様に、正式にコロンビアでの在住を許可されたベネズエラ人は凡そ17万7800人で、彼らが同伴しているこどもへの教育も同様に施しており、その為の教育費の出費も同政府の負担になっている。
先月、ラテンアメリカの数か国を訪問した米国ティラーソン国務長官は、コロンビアのベネズエラからの移民の急増から政府の費用が急増していることに対して、ベネズエラに充てていた支援金をコロンビアに回すことを検討すると回答したそうだ。
セビーリャ地区の住民のひとりマルタ・ゴンサレスはEFE通信の取材に「ひったくり、売春、麻薬の消費、さらにセクハラといったことの被害を受けることが容易になっているので外出できなくなっている」と答えて彼らへの不満を伝えた。
また、イサベル・アンガリタは「老齢の女性がその地区の公園に設置されている施設備品を利用しようとすると、彼らがつかつかと寄って来て料金を徴収しようとするのです」といって憤慨して取材記者に語ったそうだ。
また、コロンビアでまだ解散していないテロ組織「民族解放軍(ELN)」はベネズエラからの大量の移民を前に同軍への加入を誘っているという。
歴史は繰り返すというが、1970年代にはコロンビアからベネズエラに20万人近くが移民した。当時のベネズエラはカルロス・アンドゥレス・ペレス大統領の政権下で、豊富な原油の輸出で経済が潤っていた時代だったからである。その後、1999年までに凡そ21万人が同じく移民している。そして、ベネズエラに当時移民したコロンビア人が今度はまた母国に戻っている。しかし、ベネズエラで生まれた子供にはコロンビアは異国としか映らない。
当時のベネズエラに移民したコロンビア人は職を得るためにあらゆることをしたという。そんな中でコロンビアを14歳の時に離れてベネズエラに移民したマルタ・バロンはベネズエラのチャカオ市の公務員となったが、当時自分の職業を信じて貰えないようで言いづらかったそうだ。何故なら、当時多くのコロンビアから移民した女性は売春で生活の糧を得ていたからだという。
今年のインフレは15,000%まで上昇すると予測されている。ベネズエラ市民の窮状はまだに続きそうだ。