北朝鮮の積極的な融和姿勢は、国際社会の制裁と米軍戦力の最大の圧力が効果を発揮していることの証である。北朝鮮は住民の生活難による不平不満が爆発することへの恐れから融和路線に舵を切ったと考える。
73年間の金王朝の長期独裁政権崩壊の危機から脱出するためには、韓国の支援と米国の圧力緩和が必要不可欠だ。特に北朝鮮軍は、米軍戦力が近づく度に対応訓練を強いられ、石油、弾薬、備蓄物資など資源が枯渇すると同時に、兵士達の疲労が蓄積されており、軍隊の不平不満はクーデターの火種になる恐れがある。
北朝鮮としては取り急ぎその危機状況を打開するために南北首脳会談と米朝首脳会談を提案したわけだ。
トランプ大統領は今月6日(現地時間)、北朝鮮の非核化意思表明について「北朝鮮は前向きに振る舞っているようだが、まずは様子を見てみよう。正しい道に進むことを望むが、われわれはどちらの道にも進む準備を整えている」と発言した。
コーツ国家情報長官も「北朝鮮が核放棄に応じることを示す兆候はない。過去のあらゆる努力は失敗し、北朝鮮は望むものを手に入れた」とし、対話進展の可能性について「非常に懐疑的だ」と述べている。米国は二度と騙されないぞというスタンスである。
北朝鮮はこれまで、緊張→融和→対話(再開)→検証→対話決裂→緊張というサイクルを繰り返しながら、着実に核開発を進めてきた。
その歴史を見ると、1994年の第1次核危機で北朝鮮は、米国と「枠組み合意」を結び核凍結を宣言したが、2002年になって核凍結を破っていたことが判明。05年9月には、北京の6カ国協議で「すべての核兵器プログラムを放棄する」と約束した共同声明を採択したが、翌06年10月に第1回核実験を実施した。さらに08年には、米国のテロ支援国指定解除表明を受けて、核放棄の象徴として寧辺の原子炉冷却塔を爆破したが翌09年に2度目の核実験に踏み切った。北朝鮮は3回も核放棄宣言を破ったわけだ。その後、6回まで核実験を継続している。
今回、北朝鮮は韓国政府の仲介で4回目の平和攻勢に出ているが、これまで偽装工作だと判明した場合、トランプ大統領は文在寅政権が同盟国を裏切ったと受け止め、米独自の対北軍事行動に踏み切る可能性が高い。残念ながら、融和を偽装して相手を騙す北の偽装平和戦術のパターンは依然として変わらないと考える。
秋の米中間選挙で共和党が野党民主党に負けるとトランプ大統領は、ロシア疑惑なども含め早くもレームダック現象に陥り、2期目の大統領選挙でも負けてしまう恐れがある。支持率高揚のため対北軍事行動に踏み切ることも考えられよう。
トランプ大統領は中間選挙の勝利と2期目の大統領選挙で再選を狙っている。北朝鮮が体制存亡がかかった状況を打開して生き残る選択肢はCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄)しかないと考える。
(拓殖大学客員研究員、韓国統一振興院専任教授、元国防省専門委員・北韓分析官)
※本稿は3月13日、『世界日報』に掲載したコラムを筆者が加筆したものです。