企業経営の課題を総括すれば、事業目的遂行のために自覚的にとるリスクは明確にされているのか、その本源的リスクテイクは、それに必要とされる自己資本に対して、適正な利潤を生んでいるのか、本源的リスクテイクに付随するリスクは、適切に制御されているのか、本源的リスクテイクからの逸脱を阻止できるガバナンスは確立しているのかという論点に整理される。
事業一般の本質として、事業目的があり、その目的実現のための自覚的なリスクテイクがあり、リスクテイクのあり方を統制するものとしてのリスク管理があるという基本構造自体は変えようがない。ここで重要なことは、事業目的に直結したリスクテイクにおけるリスクは、経営そのものの対象であって、通常のリスク管理の対象とは全く次元を異にするということである。リスク管理といわれるものは、経営の補佐機能として、事業目的に直結したリスクテイクに付随的に発生する諸リスクの制御を目指すものと考えられるのである。
例えば、製造業において、生産しているものにかかわる本源的リスクは、自明のこととして、制御の対象であるはずもなく、自覚的に、意図的に、積極的にリスクテイクされたものであるのに対して、それに付随する生産工程上の諸リスクや、原材料にかかわる諸リスクは、積極的にとられたものではなく、受動的に受け入れざるを得ないものとして、あるいは意図せざるものとして、制御の対象になるのである。
本源的リスクはリスク管理の対象ではないから、そのリスクが顕在化したときには、企業として、どうしようもない。事実、かつてタイプライターというものがあったが、技術的環境の激変により、その社会的需要が完全に消滅したとき、タイプライターにかかわる本源的リスクは顕在化したわけで、それは、もう、どうにもしようのないこととして、タイプライター製造を廃業するほかなかったのである。
もちろん、この本源的な経営のリスクに対しては、企業として、コンピュータ製造に進出し、さらには、情報サービス業へと脱皮していくなどして、積極的に、能動的に、自覚的に対応するわけだが、それは経営そのものの高度な戦略判断であって、まさか、経営の補助機能として、リスク管理という名で呼ばれることはないであろう。
しかし、世のなか、いかに、リスクテイクとリスク管理の混同が多いことか。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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