「質感の良い本」に出会った。「質感」は素材の材質や、視覚的・触覚的な雰囲気などをさすが、「質感を生かしたしっとりした本」と形容しておきたい。ひと言で説明しきれないのがもどかしい。「人前で話すのが苦手」「書くことに自信がない」「メールや手紙がついつい長くなってしまう」。そんな人に手にとってもらいたい本になる。
今回は、『心が通じる・ひと言添える作法』(あさ出版)を紹介したい。著者は、臼井由妃さん。どこかで聞き覚えがある名前だと思ったら、『¥マネーの虎』(日本テレビ)の虎役だった。同番組は、一般人が事業計画をプレゼンテーションし、投資家たる審査員らが出資を募る内容で、2001年10月~2004年3月まで放送されていた。
「ひと言」添える技術とはなにか
――相手に「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えたいだけなのに、うまく言葉がまとまらなかったり、何が言いたいのかわからなくなってしまったことは、ないだろうか。伝えたいことは“すなおに、ひと言”で十分である。
「メールをやりとりするなかで、『いつ終えればいいのだろう?』と、悩んだことがある人も多いでしょう。『Re Re Re』と返信メールが繰り返されるほど、自分から終えるのは勇気がいるものです。友人や同年輩の知人など、気楽に話ができる方ならば、なんとか終えられるかもしれませんが、相手が目上の方ではそうはいきません。」(臼井さん)
「また、はじめてお会いする方、しばらくメールのやりとりをしていなかった方も、タイミングが難しいですよね。その思いは相手も同じです。『そろそろ終えてくれないかな?』『ここで返信を打ち切ったら、マズイかしら?』とやきもきしている可能性があります。スムーズに『終了宣言』できるのが、気が利く人というものです。」(同)
――臼井さんによれば、「終了宣言」は、非常に簡単なテクニックとのことだ。しかも、それもひと言でうまくいくのです。では、その内容をお伝えしよう。
「来週の火曜日、午後1時に渋谷の△△カフェで待ち合わせたい旨のメールを受け取ったとしましょう。あなたが、『了解しました。来週の火曜日、午後1時に△△カフェに伺います』と返信したところ、『それでは、来週の火曜日、午後1時に△△カフェでお待ちしております、相手からメールが届きました。さて、あなたはどうしますか?」(臼井さん)
「『お返事ありがとうございます。』と返信されますか?それとも、スケジュールの確認がお互いにできているのだから、これで終了していいと考えますか?以前私もこのような状況に陥り、迷ったうえで、『お返事ありがとうございます』と返信したところ、さらに送られてきて終了のタイミングがつかめなかったことがありました。」(同)
――こういうとき、有効なひと言がある。「お忙しいと思いますので、返信は不要です」「返信のお気遣いは無用です」というものになる。
「ちなみに、私は1日100通を超えるメールをやりとりしていますが、こうした『終了宣言』をしてくださる方は、1%もいません。それだけに、終了宣言のひと言は輝いてみえます。終了宣言のタイミングは、場所や時間の確認がお互いに取れたとき。ぜひあなたから『終了宣言』をされてくださいね。」(臼井さん)
「大和言葉」添えで雰囲気を醸し出す
――「大和言葉」は、太古の昔に先祖が創り出した言葉。普段使っている日本語には音読みで発音される「漢語」、その多くがカタカナ表記の「外来語」、訓読みで発音される「大和言葉」がある。大和言葉の特徴は、奥ゆかしくやわらかな響きを持っている点にある。
「『恐縮です』よりも『おそれいります』。『居眠りする』よりも『まどろむ』。と言ったほうが、優雅な印象を受けませんか?ほかにも、『感動しました』『感激です』『うれしいです』『光栄です』といった言葉も、『胸に迫る』『胸に染みる』『打つ』『胸に響く』などのほうが情緒的ですし心の動きがよりきちんと、伝わります。」(臼井さん)
「私がよく使っているのが、『心待ちにしています』という表現です。相手の返事や反応を待っているときに、『お返事をお待ちしております』と伝えるよりも『お返事、心待ちにしています』『お答えを、心待ちにしております』と伝えたほうが、はるかに大きな期待感が相手に伝わるからです。」(同)
――さらに、「ひと言書く」のではなく「ひと言添える」ことで、知的で落ち着いた雰囲気が醸し出されるので覚えておきたい。さて、筆者も、新刊を上梓したので関心のある方は手にとってもらいたい。ひと言で伝えきれない際に役立つかもしれない。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)
尾藤克之
コラムニスト