倒産の前兆を見逃さず、迅速に対処するのが経営者の最低限の資質だ!

銀行員として法人営業をやっていた時だったか、それ以後だったか、とある書籍で「倒産する会社の前兆」というのを読んだ。

うろ覚えだが、概ね次のようなものが、会社が倒産する兆候だそうだ。

①給料の遅配があり従業員の不満がたまっている。②古株の社員(役員)が辞める。③社長が姿が見えず、従業員に聞いても行先がわからない。④社長の話がやたらと大きくなる。⑤職場や工場が汚れて掃除が行き届かなくなる。

②の古株の社員(役員)が辞めるというのは、会社の内情を良く知っているので留まるのが危険だと思って辞めていく。③の社長の居場所がわからなくなるのは、金策に奔走しているからだ。④の社長の話が大きくなるのは、話し相手に窮状を悟られまいとして、つい大きな話をしてしまうからだそうだ。

倒産というのは法律用語ではない。一般に、手形不渡りを2度出して銀行取引停止処分になった状態を指す。法的整理である破産申立や民事再生申立をした時も、倒産と呼ばれることが多い。

では、もともと手形を使っていないため不渡りにならず、破産等の法的手続の申立しない状態はどうだろう?
法人の破産原因として破産法には、債務超過と支払い不能の2つを挙げられている(個人の破産原因は支払い不能だけ)。

支払い不能というのは、弁済期にある債務全額を支払えない状況にあることで、滞っている給与や家賃が支払えなければその会社は破産状態にあると言える。

もっとも、給与を受け取る従業員が経営者の親族や友人・知人で、無給で働いてくれているケースもある。極めて稀な例だが、その状態で1年以上事業継続ができた会社もあった。銀行借り入れも仕入れの必要もなく、マンパワーだけが売りの会社の場合、植物状態になりながらも生命維持ができるのだ。

とはいえ、事務所家賃や電気料金などの支払いは滞ってくるので、奇跡的な蘇生ができない限り絶命してしまう。その間、ほとんどの経営者は金策に奔走して多方面から借り入れをするので、債権者数が増え、にっちもさっちもいかなくなる。

やむなく、経営者の親族などが自己破産の費用を支弁してくれて破産申立に至って「ジ・エンド」となる。お金がないから自己破産するのに、自己破産にお金が必要だというのは矛盾しているように思える。司法修習生のころの私には、なかなかこれが理解できなかった。

破産手続きは、裁判所が無料で遂行してくれるわけではない。裁判所が選任した破産管財人(殆どの場合、弁護士が就任する)が、会社財産保全、債権(負債)の調査、会社財産を換価処分、配当手続きなどの手続を行う。

債権者数が多かったり、経営者がメチャクチャしてたりすると管財人の負担はとても重い。無報酬ではとてもやれない。その報酬を見込んで、破産申立の際に裁判所に一定額の予納金を納めなければならない。申し立てるための弁護士費用も予納金もない場合、なしくずしてきに事実上の倒産となる。

経営者たちが夜逃げすることも少なくない。倒産した会社に売掛金があると大変だ。金額が大きいと自社も危なくなるし、全額回収不能となるだけでもダメージは大きい。非情な経営者が真っ先に回収し、「あと1週間待ってくれ」などと懇願されて応じてしまう好人物がジョーカーを引くケースが多いように、私の目には映った。

経営者は自社の従業員や債権者に対して大きな責任を負っている。
自腹で補填する覚悟と余裕がないのであれば、心を鬼にしてでも回収すべきだ。それが経営者の最低限の資質だと私は考えている。

本当にあったトンデモ法律トラブル 突然の理不尽から身を守るケース・スタディ36 (幻冬舎新書)
荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年3月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。